リターンが出る「順番」が退職後の取り崩しを失敗させるリスクをどう測るか
Measuring Sequence of Returns Risk
Andrew Clare、Simon Glover、James Seaton、Peter N. Smith、Stephen Thomas(2020)『The Journal of Retirement』
ひとことで言うと
退職後の資産取り崩しで「悪いリターンが来るタイミング」がもたらすリスクを測る新しい尺度を提案し、株式と債券をトレンドフォローで切り替えると目標の引き出し率を守れる確率が上がることを示した研究です。
図で読む:この研究は何を比べたか
株式をただ持つだけから、トレンドフォローで現金へ逃がす運用へ
株式・債券を保有し続ける単純なポートフォリオ
シーケンスリスクに曝されたまま
トレンドフォロー則によるキャッシュ・スイッチングを追加
株式部分をトレンドフォロー則で現金へスイッチ
目標引き出し率の達成確率が高まる
利益への距離
- 観測された差
-
確認された
米国データを用いたシミュレーション分析で確認されている。
- 取引費用
-
未確認
取引コストを考慮したかどうかは抄録に記載がない。
- 再現性
-
未確認
他データ期間・他市場での独立追試は未評価。
- 日本市場
-
未確認
日本市場のデータは対象外。
研究で観測された差は、そのまま得られる利益ではありません。4つの関門はそれぞれ独立に読んでください。
この研究を読み解く
何を知りたかったのか
退職して資産を取り崩し始めた直後や、資産が最大に積み上がった時期の近くで悪いリターンが出ると、その後の生活設計に響きやすくなります。この「シーケンスリスク(リターンの出る順番のリスク)」をどう測れば、投資家は自分の戦略が目標の引き出し率を守れるかどうかを判断できるのかを問います。
どうやって調べたのか
シャープレシオやソルティーノレシオのような従来の運用成績指標では、望む引き出し率を実現できるかどうかを直接測れないという問題意識のもと、目標引き出し率を達成できる確率を評価する3種類のシーケンスリスク測定尺度を提案します。そのうえで、人気のグライドパス(ターゲットデート)型商品がこのリスクにどれだけ曝されているかを検討し、米国の株式・債券データを使って、株式部分を単純なトレンドフォロー則で現金へスイッチする戦略の効果を確認します。
何が分かったのか
グライドパス型の貯蓄商品はシーケンスリスクに強く曝されていることが示されました。一方で、株式と債券からなるシンプルなポートフォリオでも、株式部分をトレンドフォロー則で現金へスイッチさせることで、年5%といった一般的な目標引き出し率を達成できない確率を非常に低く抑えられることが米国データで確認されました。ただし抄録には具体的な失敗確率の数値や標本期間の記載はありません。
この結果をどう読めばよいか
提案されたのは測定尺度そのものであり、特定の戦略が万能であることを証明したものではありません。効果の大きさが数値で示されていない点、標本期間が不明な点、取引コストを考慮したかどうかが記載されていない点には注意が必要です。米国データのみの分析であり、日本の年金制度や口座での取り崩しにそのまま当てはまるとは限りません。
- 対象市場
- 米国
- 標本期間
- 未確認(White Rose機関リポジトリの抄録に標本の開始年・終了年が明記されていないため未確認)
- 対象銘柄群
- 米国の株式・債券データによる退職後取り崩し(decumulation)シミュレーション
- 観測頻度
- not_reported
- 再現性
- 未評価他データ期間や他市場での独立追試は本レコードでは評価していない。
- 日本市場での有効性
- 未評価米国データのみを用いた分析であり、日本市場のデータや年金・NISA等の制度は検証していない。
観測結果
シーケンスリスクの測定尺度
従来のシャープレシオやソルティーノレシオは引き出し目標を達成できる確率を間接的にしか反映しないとして、目標引き出し率の達成確率を直接評価する3種類のシーケンスリスク測定尺度を提案した。
効果量未掲載(not_reported)
White Rose抄録に効果量の記載はなく、尺度の提案という定性的な内容のみ記載されている。
グライドパス型商品の脆弱性
人気のあるグライドパス(ターゲットデート)型の貯蓄商品がシーケンスリスクに強く曝されていることを示した。
効果量未掲載(not_reported)
抄録は方向性のみを述べ、具体的な数値は示していない。
トレンドフォローによる改善
米国データを用いた分析で、株式と債券からなる単純なポートフォリオでも、株式部分を単純なトレンドフォロー則で現金へスイッチさせることにより、年5%などの一般的な目標引き出し率を達成できない確率を非常に低くできることを示した。
効果量未掲載(not_reported)
抄録は「very low probabilities of failure」という定性表現のみで、具体的な失敗確率の数値は記載されていない。
効果量は原典の掲載値です。当サイトが再計算したものではなく、将来のリターンを示すものでもありません。
限界
原典の設計上、この結果をそのまま一般化できない条件です。
原典と利用条件
- White Rose機関リポジトリ(著者版)https://eprints.whiterose.ac.uk/id/eprint/161455/
- 出版社ページ(DOI)https://doi.org/10.3905/jor.2020.1.066