売買が最も多い家計ほど、費用控除後の年率リターンは低かった
Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors
Brad M. Barber、Terrance Odean(2000)『The Journal of Finance』
出版社ページ(DOI。The Journal of Finance 55巻2号 773-806頁) 著者ページの掲載版全文(UC Berkeley Haas)
ひとことで言うと
米国のディスカウント証券の66,465世帯を追跡し、売買が最も多い層の年率リターンが11.4%と市場を下回ったと報告した研究。
図で読む:この研究は何を比べたか
売買が多い層ほど、控除後の年率リターンは低い
売買が最も多い層
年率11.4%。手数料と売買スプレッドを控除した後の水準。
月次の売買回転率で世帯を分けたときの、費用控除後の年率リターン
市場(時価総額加重)
年率17.9%。抄録が比較の基準として示す水準。
平均的な世帯は年率16.4%で、市場の水準を下回った
利益への距離
- 観測された差
-
支持されない
売買が最も多い層は年率11.4%で、抄録が示す市場の17.9%を下回った。
- 取引費用
-
支持されない
手数料と売買スプレッドを控除した後に、市場を下回る結果が生じている。
- 再現性
-
未確認
同じ設計を別市場・別期間へ適用した独立の追試は本レコードでは評価していない。
- 日本市場
-
未確認
標本は米国の世帯であり、日本市場の個人投資家は検証されていない。
研究で観測された差は、そのまま得られる利益ではありません。4つの関門はそれぞれ独立に読んでください。
この研究を読み解く
何を知りたかったのか
個人投資家が自分で銘柄を選んで売買するとき、成績を左右するのは銘柄選択の巧拙なのでしょうか、それとも売買の頻度とそれに伴う費用なのでしょうか。この研究は、デイトレードに限らず個人投資家全体を対象に、売買回転率の高い世帯と低い世帯で実現リターンにどれだけ差がつくかを問います。
どうやって調べたのか
米国の大手ディスカウント証券に口座を持つ66,465世帯の普通株の保有と売買を、1991年から1996年まで月次で追跡します。各世帯について、費用を含める前の総リターンと、売買手数料および売買スプレッドを控除した後のリターンを算出します。そのうえで月次の売買回転率で世帯を五分位に分けて比べます。比較の基準には時価総額加重の市場指数のほか、CAPMとファーマ=フレンチの3ファクターモデルを用いた時系列回帰を使います。
何が分かったのか
費用を含める前で見ると、売買が多い世帯と少ない世帯の成績差はほとんどありませんでした。ところが手数料と売買スプレッドを控除すると差が開き、抄録によれば売買が最も多い層の年率リターンは11.4%で、市場の17.9%を下回りました。平均的な世帯の年率リターンは16.4%、年間の売買回転率は75%で、保有銘柄は高ベータ・小型・バリュー寄りに傾いていました。著者らは、この売買水準を自信過剰で説明できると述べています。
この結果をどう読めばよいか
銘柄選択そのものではなく、売買の頻度とそれに伴う手数料・スプレッドが成績を削っていたという整理です。対象はデイトレーダーではなく個人投資家全体であり、日中の反復売買に絞った分析ではない点に注意が必要です。標本は1991年から1996年の米国のディスカウント証券口座であり、当時の手数料水準は現在と大きく異なります。日本市場での成立も検証されていません。
- 対象市場
- 米国
- 標本期間
- 1991
〜1996 - 対象銘柄群
- 米国の大手ディスカウント証券に口座を持つ66,465世帯の普通株の保有と売買。デイトレードに限定せず、個人投資家全体の売買頻度と成績を対象としている。
- 観測頻度
- monthly
- 再現性
- 未評価1991年から1996年の米国のディスカウント証券口座という単一標本の結果であり、同じ設計を別市場・別期間へ適用した独立の追試は本レコードでは評価していない。
- 日本市場での有効性
- 未評価標本は米国のディスカウント証券に口座を持つ世帯であり、日本市場の個人投資家での成立は評価していない。
観測結果
売買が最も多い層の年率リターン
月次の売買回転率で分けたとき、最も活発に売買する層の年率リターン。
効果量11.4 %(年率)(net_of_costs)
抄録の記載値。同じ抄録は市場のリターンを17.9%としており、差は手数料と売買スプレッドを控除した後の実現リターンで生じている。
平均的な世帯の年率リターン
標本の平均的な世帯が得た年率リターン。
効果量16.4 %(年率)(net_of_costs)
抄録の記載値。抄録が示す市場のリターン17.9%を下回る。
平均的な世帯の年間売買回転率
平均的な世帯が1年間に入れ替えた普通株ポートフォリオの割合。
効果量75 %(年率)(not_reported)
抄録の記載値。売買の多さを示す指標であり、リターンそのものではない。
保有銘柄の傾き
平均的な世帯は、高ベータ・小型・バリュー寄りの銘柄構成に傾いていた。。
効果量未掲載(not_reported)
傾きの大きさは抄録に示されておらず、向きのみを収録する。
効果量は原典の掲載値です。当サイトが再計算したものではなく、将来のリターンを示すものでもありません。
追試の記録
この結果を追試した研究として、当サイトが台帳に持っているレコードです。
- ブラジルの指数先物のデイトレーダーという別の対象を扱った研究であり、本研究の米国ディスカウント証券の世帯標本の追試ではない。 関連研究のレコードを見る
「独立研究」は原典と著者が重ならない研究、「同一著者」は原典の著者を含む研究です。追試の件数は網羅ではありません。
限界
原典の設計上、この結果をそのまま一般化できない条件です。
原典と利用条件
- 出版社ページ(DOI。The Journal of Finance 55巻2号 773-806頁)https://doi.org/10.1111/0022-1082.00226
- 著者ページの掲載版全文(UC Berkeley Haas)https://faculty.haas.berkeley.edu/odean/papers%20current%20versions/individual_investor_performance_final.pdf