「分配金を受け取ると得か」はいくつかの問いに分ける必要がある

毎月分配型投信について「分配金が毎月入るから得」「分配すると複利が効かないから損」といった説明を見かけることがあります。しかし、今回の研究検証台帳から確認できる範囲では、この問いをそのまま一つの○×問題として扱うことはできません。

少なくとも分けて考えたいのは、投資家が分配金や配当を心理的にどう認識しているのか、受け取った現金をどう扱っているのか、そしてその現金が運用収益なのか元本の払い戻しなのか、という異なる論点です。

前二つに関して参考になるのが、Samuel M. HartzmarkとDavid H. Solomonによる2019年の研究です。The Journal of Financeに掲載されたこの研究は、米国株式を保有する個人投資家、投信、機関投資家について、配当支払い銘柄への売買・保有行動を調べています。

ただし、ここで重要なのは対象です。この研究は、日本の毎月分配型投資信託そのものを検証した研究ではありません。米国市場で、株式の配当を投資家がどう認識し、どう行動しているかを観測したものです。毎月分配型投信への適用は、そのままでは確認されていません。

また、当サイトの研究台帳で確認できる研究結果は方向のみで、効果量を示す数値はありません。したがって、「どの程度強い傾向なのか」を数値で示すこともできません。

投資家は配当と値上がり益を別のものとして扱っていた

HartzmarkとSolomonが報告した中心的な結果は、投資家が配当と値上がり益を、同じ投資から生じる一体のリターンとしてではなく、切り離された属性として扱う傾向です。

研究では、個人投資家だけでなく、投信や機関投資家にもこうした行動が観測されています。配当が支払われれば、それに伴って株価が下がるという関係を十分に認識せず、配当そのものを独立した利益のように扱う行動が報告されています。

この点は、毎月分配型投信を考えるときにも興味深い論点です。口座へ現金が振り込まれると、「資産から収入が生まれた」と認識しやすくなります。しかし、現金を受け取ったという事実だけでは、それが投資家の資産全体を増やしたことまでは意味しません。

もっとも、この研究が直接観測しているのは米国の株式配当をめぐる行動です。毎月分配型投信の分配金を受け取る日本の投資家が同じように認識している、と研究結果から断定することはできません。

配当は「使える収入」として扱われ、ほとんど再投資されなかった

同じ研究では、投資家が配当をほとんど再投資せず、値上がり益とは別の安定した収入源のように扱っていたことも報告されています。

ここで観測されているのは、投資成果そのものというより投資家の行動です。値上がりによって資産価値が増えた場合と、配当として現金を受け取った場合では、経済的な結果だけでなく「どの勘定から得たお金なのか」という認識が行動に影響している可能性が示されています。

研究では、処分効果などの売買パターンについても、トータルリターンではなく価格変化によって駆動されていると報告されています。つまり、配当を含めた投資成果全体ではなく、価格が上がったか下がったかという見え方が売買行動と結びついていました。

ただし、この結果から「分配金を使うことが損」「再投資することが得」といった結論までは導けません。今回確認できる研究は投資家行動の観測であり、毎月分配型投信について異なる受け取り方を比較した資産形成結果を報告したものではありません。

配当への需要そのものも市場環境によって変化していた

HartzmarkとSolomonは、配当への需要が低金利期や市場不調期に体系的に高まることも報告しています。そして、その需要が配当支払い銘柄の将来リターンを押し下げる方向に働くとしています。

また、アナリストについても、配当が株価へ与える影響を織り込まず、配当支払い銘柄に対して楽観的な株価予想を行う傾向が報告されています。

ここから読み取れるのは、「現金を定期的に受け取れる」という特徴が、投資対象への評価と切り離されているとは限らないということです。配当そのものへの需要が高まれば、配当を支払う資産への需要にも影響し得るという観測です。

ただし、この研究について当サイトで確認できるのは結果の方向だけです。需要や将来リターンへの影響がどの程度だったのかという効果量は確認されていません。また、出版社抄録には標本期間の記載がなく、当サイトの台帳でも期間は確認できていません。

研究台帳 — 配当と値上がり益を投資家は別々の心の勘定として扱っているか(Hartzmark & Solomon, 2019)

日本の投信では「分配金=運用収益」とは限らない

ここまでの研究は投資家行動についてのものですが、日本の毎月分配型投信を考えるうえでは、別に制度上の確認が必要です。

金融庁の注意喚起・投資信託の分配金に関する説明資料では、投資信託の分配金のうち「特別分配金(元本払戻金)」は運用収益ではなく、投資家自身の元本の払い戻しであると説明されています。特別分配金が非課税なのも、利益ではないためです。

金融庁は毎月分配型投信について、分配金の一部が元本の一部払戻しに相当する場合があることにも注意を促しています。出典は金融庁の注意喚起・投資信託の分配金に関する説明資料で、金融庁Webサイト配下に掲載されています。

したがって、「毎月現金を受け取っている」という事実と、「運用によって毎月利益を得ている」という認識は分けて確認する必要があります。少なくとも制度上、分配金という名称だけでは、その全額が運用収益であるとは判断できません。

これはHartzmarkとSolomonの研究結果とは別の話です。研究は投資家が配当をどう認識して行動したかを観測したもの、金融庁の説明は日本の投資信託における分配金の制度上の性質を説明したものです。この二つを直接の因果関係として結びつけることはできません。

研究と制度資料は何を報告しているか

研究と制度資料は何を報告しているか
研究・資料 対象 報告・説明されている内容 今回確認できないこと
Hartzmark・Solomon(2019) 米国株式を保有する個人投資家・投信・機関投資家 配当と値上がり益を別の属性として扱う傾向、配当をほとんど再投資せず安定した収入源のように扱う行動を報告 日本の毎月分配型投信で同じ行動が生じるか、毎月分配型投信の得損、効果量
Hartzmark・Solomon(2019) 米国の配当支払い銘柄をめぐる市場行動 配当需要が低金利期・市場不調期に高まり、将来リターンを押し下げる方向を報告 日本市場で同じ関係があるか、その影響の大きさ
金融庁の注意喚起・投資信託の分配金に関する説明資料 日本の投資信託制度 特別分配金は運用収益ではなく元本の払い戻しであり、毎月分配型投信では分配金の一部が元本払戻しに相当する場合があると説明 投資家が分配金を心理的にどう認識しているか、どの運用方法が有利か

対照すると、今回確認できる根拠は「毎月分配型投信は得か損か」という一つの答えを示しているわけではありません。研究から確認できるのは、投資家が配当を値上がり益とは別の収入として扱う行動です。一方、日本の制度資料から確認できるのは、分配金には運用収益ではなく元本の払い戻しが含まれる場合があるという事実です。

したがって、「分配金が振り込まれた」という出来事だけを見て、その金額をすべて投資による新しい収入とみなすことには注意が必要です。ただし、それが資産形成上どの程度の差を生むのかは、今回の根拠からは確認できません。

日本市場への距離

今回取り上げたHartzmarkとSolomonの研究は米国市場を対象とした研究です。日本の毎月分配型投信そのものを標本にした研究ではなく、日本の個人投資家が分配金と値上がり益を同じように別勘定として扱っているかも確認されていません。当サイトの研究台帳でも、日本への適用可能性は未評価です。

研究の再現性についても、当サイトの台帳では未評価です。また、確認できる結果は方向のみで、効果量は示されていません。そのため、投資家行動への影響の大きさや、資産形成結果への実際の影響を数値で評価することはできません。

一方、日本の投資信託については、金融庁資料から特別分配金が元本の払い戻しであることは確認できます。ここは米国研究を日本へ当てはめた推測ではなく、日本の制度についての説明です。

今回の根拠から確認できる範囲をまとめると、投資家が配当を値上がり益とは別の「収入」のように扱う行動は米国で報告されています。そして日本の毎月分配型投信では、受け取る分配金の一部が運用収益ではなく自分の元本の払い戻しである場合があります。ただし、毎月分配型投信を利用すること自体が資産形成にとって得なのか損なのか、その結論を今回の研究から出すことはできません。

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本記事は査読誌等に掲載された研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。各研究の結論は、それぞれの標本・期間・前提の範囲でのみ成立します。

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