高配当株は高リターンなのか — 古典研究が示せなかったこと
配当利回りの高い株だけを選べば、安定した配当を受け取りながら高いリターンも期待できるのでしょうか。高配当株には「現金が定期的に入る」という分かりやすさがありますが、それと配当込みの期待リターンが高いことは同じではありません。結論を先に書くと、今回確認した研究からは、高配当株を選ぶことで期待リターンが高くなるという優位は確認できません。一方で、投資家が配当を値上がり益とは別の収入として捉え、その需要が価格形成に影響する可能性は報告されています。
問いは「配当が多いか」ではなく「配当込みで有利か」
高配当株を考えるとき、最初に分けておきたいのが「配当を多く受け取れること」と「投資全体の期待リターンが高いこと」です。
配当は株主が受け取るリターンの一部ですが、株式投資の結果は配当だけでは決まりません。今回取り上げる研究も、単に配当額の多寡を比べているわけではなく、配当利回りの違いによって期待リターンに差が観測できるのか、また投資家が配当をどのように認識して売買しているのかを検証しています。
したがって、この記事で確認する問いは「高配当株は配当を多く払うか」ではありません。「配当利回りの高い株を選ぶことで、配当を含めた期待リターンに優位が観測されているか」です。
この問いについて、古典的な実証研究では高利回り株と低利回り株の期待リターン差を明確に示せませんでした。さらに後年の行動研究では、投資家自身が配当と値上がり益を別々のものとして扱っていることが報告されています。
高利回り株の期待リターン差は示せなかった
Fischer BlackとMyron Scholesが1974年にJournal of Financial Economicsで発表した研究は、米国普通株式を配当利回りの水準で区分し、高利回り株と低利回り株で期待リターンに差があるかを検証した古典研究です。
この研究で報告されたのは、税引前でも税引後でも、高利回り株と低利回り株の期待リターンの差を当時最良の実証手法によって示すことができなかった、という結果です。
研究ではさらに、低利回り株へ集中する課税投資家についても、高利回り株へ集中する非課税投資家についても、その選択によって期待リターンが増えるのか減るのかをデータから判別できないと論じています。
ここで重要なのは、「差を示せなかった」と「差がないことを証明した」を区別することです。
BlackとScholesの結果は、高配当株と低配当株の期待リターンが完全に同じだと証明したものではありません。この研究の標本と実証手法では、配当利回りによる期待リターン差を判別できなかった、という報告です。
また、当サイトの研究台帳に記録されている結果は方向のみで、効果量を示す数値は確認されていません。どの程度の差があったのか、あるいはどの程度小さかったのかを、ここから数値で評価することはできません。
後続研究についても、このレコードでは評価していません。そのため、この研究だけから配当利回りと期待リターンをめぐる研究史全体の結論まで広げることはできません。
投資家は配当と値上がり益を別のものとして扱う
Samuel M. HartzmarkとDavid H. Solomonが2019年にThe Journal of Financeで発表した研究は、配当利回りそのものの期待リターン差ではなく、投資家が配当をどのように認識し、売買しているかを扱っています。
標本は米国株式を保有する個人投資家、投信、機関投資家で、配当支払い銘柄に対する売買・保有行動が分析されています。
研究では、個人投資家だけでなく投信や機関投資家を含む多くの投資家が、配当と値上がり益を切り離された属性として扱っていると報告されています。配当の支払いに価格下落が伴うことも、十分に認識されていないとされています。
さらに、投資家は配当をほとんど再投資せず、値上がり益とは別の安定した収入源のように扱う傾向が報告されています。処分効果などの売買パターンについても、トータルリターンではなく価格変化によって駆動されているとされています。
この結果が示しているのは、高配当株の投資成果が優れているということではありません。むしろ、投資家が配当と株価変化を一体のトータルリターンとしてではなく、別々の心の勘定として認識している可能性です。
この研究についても、当サイトの研究台帳で確認できる結果は方向のみで、効果量を示す数値は確認されていません。
配当への人気が将来リターンを押し下げる方向も報告された
HartzmarkとSolomonは、配当への需要が常に一定ではないことも報告しています。
研究では、配当への需要が低金利期や市場不調期に体系的に高まり、その需要が配当支払い銘柄の将来リターンを押し下げる方向に働くとされています。また、アナリストについても、配当の株価への影響を織り込まず、配当支払い銘柄に対して楽観的な株価予想を行う傾向が報告されています。
ここは、高配当株をめぐる直感とは少し異なる部分です。
投資家から好まれる属性であることと、その銘柄の将来リターンが高いことは同義ではありません。少なくともこの研究では、配当に対する需要が高まる局面において、配当支払い銘柄の将来リターンが押し下げられる方向が観測されています。
ただし、これも「高配当株は将来リターンが低い」と一般化できる結果ではありません。対象は米国市場であり、研究台帳で確認できるのは方向のみです。効果量は確認されておらず、どの程度リターンを押し下げるのかを数値で示すことはできません。
2本の研究を並べると何が見えるか
収録した2本を、標本・報告された内容・この研究からは言えないことの三つで並べると次のようになります。
| 研究 | 標本 | 報告された内容 | この研究からは言えないこと |
|---|---|---|---|
| Black, Scholes(1974) | 米国普通株式を配当利回りで区分 | 税引前・税引後とも、高利回り株と低利回り株の期待リターン差を示すことができなかった | 高利回り株と低利回り株の期待リターンが完全に同じであることの証明 |
| Hartzmark, Solomon(2019) | 米国株式を保有する個人投資家・投信・機関投資家 | 配当と値上がり益を別々に扱う行動、配当需要が高まる局面、配当支払い銘柄の将来リターンを押し下げる方向を報告 | 高配当株全般の将来リターンが低いという一般則 |
2本は同じ問いを同じ方法で検証した研究ではありません。
BlackとScholesは、配当利回りによって期待リターンに差があるかを直接検証し、その差を示せなかったと報告しました。HartzmarkとSolomonは、投資家が配当をどのように認識しているかを調べ、配当が値上がり益とは別の安定収入のように扱われていることや、配当への需要が価格形成と将来リターンに関係する方向を報告しています。
両者を合わせても、「高配当株を選べば配当込みリターンが高くなる」という結果にはなりません。一方で、「高配当株に期待リターン上の差は絶対に存在しない」とまで結論する材料でもありません。
確認できるのは、配当利回りという属性だけから期待リターンの優位を当然視することは、今回の研究記録からは支持されていないという範囲です。
日本市場への距離
今回取り上げた2本はいずれも米国市場を対象とした研究です。当サイトの研究台帳では、日本市場への適用可能性は評価されていません。
BlackとScholesの研究について、日本株でも高利回り株と低利回り株の期待リターン差が同じように判別できないのかは確認されていません。HartzmarkとSolomonが報告した、配当と値上がり益を別々に扱う行動や、配当需要と将来リターンの関係についても、日本の個人投資家や日本株市場で同じ現象が観測されるかは未検証です。
また、両研究とも当サイトの台帳上では再現性評価が行われていません。今回確認した範囲は、米国を対象とした各研究がそれぞれ何を報告したかまでです。
したがって、日本の高配当株について配当込みリターンの優劣を判断するには、この2本だけでは足りません。「高配当だから期待リターンも高い」という通説をそのまま裏づける結果は今回の研究記録にはありませんが、日本市場での結論まで同一視することもできません。
本記事は査読誌等に掲載された研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。各研究の結論は、それぞれの標本・期間・前提の範囲でのみ成立します。
出典一覧
- Black & Scholes, The Effects of Dividend Yield and Dividend Policy on Common Stock Prices and Returns (Journal of Financial Economics, 1974) — 米国普通株式を配当利回りの水準で区分した標本。標本期間は原典に明示がない。
- Hartzmark & Solomon, The Dividend Disconnect (The Journal of Finance, 2019) — 米国株式を保有する個人投資家・投資信託・機関投資家の売買行動。標本期間は原典抄録に明示がない。