4%ルールは日本でも成立したか — 先進17カ国の安全引き出し率の検証
資産形成やFIREの議論では、「資産の4%を毎年引き出せば長期にわたって資金を維持できる」という4%ルールがしばしば紹介されます。では、この数字は米国以外の市場でも成立したのでしょうか。結論を先に書くと、日本を含む先進17カ国を調べたPfau(2010)では、4%を超える安全引き出し率が確認された国は一部に限られ、日本の歴史データでは4%ルールは支持されませんでした。ただし、日本標本には戦争やハイパーインフレを含む長い歴史があり、この結果を現在の日本へそのまま置き換えることもできません。
「4%ルールが成立する」を何で判定するのか
今回確認する問いは、「米国以外の市場データでも、4%ルールは成立すると報告されているか」です。
ここで注意したいのは、4%という数字を単に平均リターンと比較しているわけではないことです。Pfau(2010)が調べたのは、退職後の資産から一定の割合を引き出す場合に、各国の過去データの中でどこまでの引き出し率に耐えられたかという問題です。
研究は1900〜2008年の先進17カ国を対象とし、日本も標本に含めています。 1900〜1979年に退職したケースを対象に、延べ1,360通りを検証しています。
そのうえで各国のSAFEMAX、つまり過去の対象ケースで資産を維持できた最大の初期引き出し率を比較しています。したがって、ここで問われているのは「株式市場が長期的に上昇したか」ではなく、「引き出しを続けながら資産を維持できたか」です。
また、この研究の結果は手数料控除前です。さらに完全予見という有利な仮定が置かれています。現実の投資家より厳しい条件で4%が失敗した、という設計ではなく、むしろ有利側の仮定を含んだ検証である点は、結果を読むうえで重要です。
17カ国で4%を超えたのは4カ国だけだった
Pfau(2010)が報告した結果では、先進17カ国のうちSAFEMAXが4%を超えたのは、カナダ、スウェーデン、デンマーク、米国の4カ国だけでした。
つまり、この標本では「4%という数字が先進国に広く共通して安全だった」とは報告されていません。
米国のSAFEMAXは4.02%で、17カ国中4位でした。該当したのは1969年退職者です。米国については4%という水準に近い結果が確認されていますが、同じ方法を各国へ広げると結果には大きな差がありました。
ここで重要なのは、研究が「米国の4%ルールを別の国へそのまま移植してもよい」と確認したものではないことです。むしろ、同じ長期の検証方法を複数市場へ適用すると、安全引き出し率は国によって異なることが報告されています。
しかも、4%を超えた4カ国という結果は、完全予見かつ手数料控除前という有利な仮定のもとで得られています。この研究の範囲からは、4%を先進国共通の普遍的な数字とみなせる根拠は確認できません。
日本ではSAFEMAXが0.47%だった
日本は17カ国の中でも特に厳しい結果でした。
Pfau(2010)が報告した日本のSAFEMAXは0.47%で、17カ国中最低でした。該当したのは1940年退職者です。
また、日本標本では4%で引き出した場合、最短3年で資金が尽きたケースがあり、 4%引き出し時の失敗率は37.5%と報告されています。
したがって、「米国で知られる4%という初期引き出し率が、日本の過去データでも安全だったか」という限定された問いに対しては、この研究の答えは否定的です。当サイトの研究検証台帳でも、日本への適用可能性は支持されないと整理しています。
ただし、ここから「日本では0.47%しか引き出せない」「日本ではFIREは成立しない」と結論することはできません。
0.47%は、研究が対象にした1900〜2008年の日本市場において、対象となった退職ケースを通じて得られたSAFEMAXです。現在の日本の投資家に対する推奨引き出し率として算出された数字ではありません。
研究が報告した歴史的な結果と、現在の個人が将来どの程度引き出せるかという予測は分けて読む必要があります。
日本の数字が極端になった歴史的条件も切り離せない
日本の結果を読む際には、標本そのものの特殊性も無視できません。
Pfauの日本標本は1900〜2008年です。この期間には戦争による市場の断絶やハイパーインフレ期が含まれています。1940年退職者のSAFEMAXが日本の最低値になったことも、この長い歴史の中で観測された結果です。
したがって、0.47%という数字だけを取り出して、現在の日本の退職者にも同じ条件が再現されるとみなすことはできません。
一方で、「昔の日本は特殊だった」として結果そのものを除外することにも注意が必要です。この研究が問うているのは、長期の実績データを使った場合に 4%がどこまで耐えたかです。その標本に日本を含める以上、実際に起きた厳しい市場環境も検証結果の一部になります。
つまり、日本について確認できるのは二つです。歴史データ上、米国基準の 4%ルールは支持されなかったこと。そして、その結果には現在と同一視できない歴史的条件が含まれていることです。この二点はどちらか一方だけを書くのではなく、同時に扱う必要があります。
研究が報告したことと、そこから言えないこと
| 研究 | 標本 | 報告された内容 | 報告されていないこと |
|---|---|---|---|
| Pfau(2010) | 1900〜2008年の先進17カ国、日本を含む。1900〜1979年退職の延べ1,360通り | SAFEMAXが4%超だったのはカナダ、スウェーデン、デンマーク、米国の4カ国。米国は4.02%で17カ国中4位。日本は0.47%で17カ国中最低。日本の4%引き出しでは最短3年で資金が尽きたケースがあり、失敗率は37.5% | 4%が現在の日本でも必ず失敗すること。0.47%が現在の日本で適切な引き出し率であること。日本ではFIREが成立しないこと |
この対照表から読み取れるのは、4%ルールについて「米国で確認された数字だから先進国でもおおむね成立する」と一般化することは、この研究では支持されていないという点です。
特に日本は研究対象そのものに含まれており、少なくともこの歴史標本では米国基準の4%ルールに対して反例側の結果となりました。
同時に、この研究は将来の日本について安全な引き出し率を確定する研究でもありません。過去の対象期間で何が起きたかを確認する研究と、現在から先の資産寿命を予測する問題は同じではありません。
日本市場への距離
Pfau(2010)の特徴は、日本を含む先進17カ国を同じ枠組みで調べていることです。そのため、海外研究でありながら「日本は標本外なので分からない」という研究ではありません。日本の歴史データについては、4%ルールが支持されなかったという結果が直接報告されています。
一方、その日本データは1900〜2008年を対象としており、戦争による市場の断絶やハイパーインフレ期を含みます。この歴史的条件が現在の日本へそのまま当てはまることは確認されていません。
また、研究結果は完全予見、手数料控除前という有利な仮定のもとで得られたものです。実際の取引費用を含めた現在の日本の投資環境について、この研究だけから具体的な安全引き出し率を決めることはできません。
したがって、この研究から確認できる範囲は限定されています。先進17カ国の歴史データでは4%超のSAFEMAXは一部の国に限られ、日本の過去データでは米国基準の4%ルールは支持されなかった。一方で、現在の日本に何%が適切なのか、将来も同じ結果になるのかは、この研究では検証されていません。
本記事は査読誌等に掲載された研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。各研究の結論は、それぞれの標本・期間・前提の範囲でのみ成立します。
出典一覧
- Pfau, An International Perspective on Safe Withdrawal Rates: The Demise of the 4 Percent Rule? (Journal of Financial Planning, 2010) — 先進17カ国、1900〜2008年のDMSデータ。1900〜1979年退職の延べ1,360通りを検証。