「4%なら30年持つ」を三つの問いに分ける

4%ルールを確認するときは、「4%」という数字だけを取り出さないことが重要です。少なくとも、どの市場のデータを使ったのか、株式と債券をどう組み合わせたのか、そして何をもって「持った」と判定したのかを分ける必要があります。

今回確認する2本はいずれも米国市場の歴史データを使っています。Bengen 1994は 1926〜1976年を対象とし、米国普通株式と中期米国国債を組み合わせたモデルポートフォリオを検証しました。Cooley、Hubbard、Walz 1998は1926〜1995年を対象とし、 S&P500種指数と長期高格付社債を使っています。

したがって、この2本から直接分かるのは、米国株式・債券の過去データ上で一定の取り崩しルールを適用した場合に、資産がどの程度持続したかです。日本の資産、日本の物価、日本の制度を前提にした結果ではありません。

もう一つ注意したいのが、「30年持つ」という表現です。Bengen 1994は30年だけを成功・失敗の境界として調べた研究ではなく、仮想退職者ごとにポートフォリオが何年持続したかを見ています。一方、トリニティ・スタディでは30年のpayout期間について成功率が示されています。同じ4%を扱っていても、報告の仕方は同一ではありません。

Bengen 1994では4%が全ケースで最低33年持続した

4%ルールの起源として挙げられるのが、William P. Bengenが1994年にJournal of Financial Planningで発表した研究です。

標本は米国市場の1926〜1976年です。基本となるモデルポートフォリオは、米国普通株式50%と中期米国国債50%。50通りの仮想退職者について、取り崩し開始後に資産が何年持続するかを確認しています。さらに、株式比率を0%、25%、50%、75%、100%と変えた比較も行われています。

初年の取り崩し率を3%とした場合、全ての退職開始年で資産は最低50年持続しました。著者はこの水準を「絶対的に安全」と表現しています。ただし、税金は考慮されていません。

4%では、検証された全ケースで最低33年持続し、多くのケースでは50年以上持続したと報告されています。一般に「4%ルール」の根拠として参照されるのは、この結果です。

一方、5%では結果が変わります。1960年代後半から1970年代前半に退職した仮想ケースでは、最短の持続年数が約20年となり、著者は多くの場合に生涯を賄うには明らかに不十分だと位置づけています。

この研究から読めるのは、「4%なら理論的に資産が永久に減らない」ということではありません。歴史上の米国データに対して、研究で設定された株式・債券ポートフォリオと取り崩し条件を当てたところ、4%のケースでは最短でも33年持続した、という結果です。

資産配分についても結果が報告されています。株式比率を35%から75%へ引き上げた場合、 20年後のポートフォリオ評価額は平均約123%増加しました。ただし、ここから特定の株式比率が将来も同じ結果を生むとは確認できません。あくまで研究標本内で報告された比較です。

また、この研究は取引コスト考慮前であり、対象市場も米国に限られます。当サイトの研究台帳では再現検証、日本市場への適用可能性はいずれも未評価です。

研究台帳 — 米国株式・債券の歴史データで退職後の取り崩し率と資産の持続年数を検証した研究(4%ルールの起源)

トリニティ・スタディは「何割の期間で成功したか」を示した

4%ルールを語る際にもう一つ頻繁に参照されるのが、Philip L. Cooley、Carl M. Hubbard、Daniel T. Walzによる1998年の研究です。AAII Journalに掲載され、通称トリニティ・スタディとして知られています。

こちらは1926〜1995年の米国データを使用し、株式にはS&P500種指数、債券には長期高格付社債を用いています。資産配分は5通りです。

Bengen 1994との大きな違いは、一定期間の取り崩しに対する「成功率」という形で結果が示されていることです。

30年のpayout期間では、株式100%・取り崩し率4%の成功率は98%でした。株式50%・債券50%で取り崩し率4%の場合は100%と報告されています。

ただし、ここで「4%なら必ず30年持つ」と一般化することはできません。同じ研究でも、インフレ調整後の株式50%・債券50%、4%、30年という条件では成功率は95%です。条件の置き方によって報告値が変わることが確認できます。

取り崩し率と資産配分の組み合わせによる違いも大きく表れています。株式50%・債券50%、取り崩し率7%、30年では成功率90%でした。一方、株式25%・債券75%、取り崩し率7%、30年では32%です。

つまり、この研究が示しているのは「取り崩し率だけで成否が決まる」という結果ではありません。少なくとも研究内では、取り崩し率、株式・債券配分、インフレ調整の条件によって成功率が異なっています。

こちらも米国単一市場の研究で、取引コスト考慮前です。当サイトの研究台帳では、後続する関連論文の存在は把握しているものの内容は未確認であり、再現検証は未評価です。日本市場への適用可能性も未評価です。

研究台帳 — 株式・債券配分と取り崩し率別に見た退職後ポートフォリオの過去70年成功率(通称トリニティ・スタディ)

2本を並べると「4%」の意味が見えやすい

2本の研究は、ともに4%という取り崩し率を扱っていますが、標本、債券の種類、結果の示し方は異なります。

Bengen 1994とトリニティ・スタディの比較
研究 標本・市場 主な資産 4%についての報告 30年との関係 税・手数料など
Bengen 1994 米国、1926〜1976年、50通りの仮想退職者 米国普通株式・中期米国国債。基本モデルは50%・50% 全ケースで最低33年持続、多くは50年以上 30年成功率を示した研究ではなく、最短持続年数が33年 税金考慮外、取引コスト考慮前
Cooley・Hubbard・Walz 1998 米国、1926〜1995年 S&P500種指数・長期高格付社債、5通りの配分 株式50%・債券50%では30年成功率100%。インフレ調整後は95% 30年payoutの成功率を直接報告 取引コスト考慮前

4%ルールを「固定実質支出を続けながら30年間資産を維持できるか」という問いとして読む場合、特に重要なのはトリニティ・スタディのインフレ調整後の結果です。株式50%・債券50%、4%、30年で報告された成功率は95%であり、100%ではありません。

一方、Bengen 1994では4%の全ケースが最低33年持続しています。この違いをどちらか一方が正しいという形で処理する材料は、今回確認した研究台帳にはありません。使われた期間、債券、検証方法などが異なるため、それぞれがどの条件で何を報告したかを分けて読む必要があります。

したがって、「年4%なら資産は30年持つ」という短い表現は、原典の内容をかなり圧縮しています。より正確には、米国の歴史的な株式・債券データを用いた複数の検証で、 4%という初期取り崩し率が比較的高い持続性または成功率を示した、と整理できます。

日本市場への距離

今回確認した2本から、日本の個人投資家が同じ4%を設定すれば同じ結果になるとは判断できません。

Bengen 1994の標本は米国の1926〜1976年、トリニティ・スタディは米国の1926〜1995年です。使用資産も米国株式と米国の債券であり、日本の株式・債券や日本の物価を使った検証ではありません。当サイトの研究台帳でも、両研究の日本市場への適用可能性は未評価です。

また、両研究には取引コスト考慮前という制約があります。Bengen 1994では税金も考慮されていません。したがって、日本の税制や制度を組み込んだ実際の取り崩し結果まで、この2本が検証しているわけではありません。

4%ルールの原典から確認できるのは、「4%という数字にまったく根拠がない」ということではなく、その根拠が米国の歴史データと特定の資産配分・取り崩し条件に依存していることです。

日本の資産や、米国以外の市場でも同様の取り崩し率が成立するかは別の問いです。そこまで検討するには、国際的な取り崩し率を扱った研究を別に確認する必要があります。

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本記事は査読誌等に掲載された研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。各研究の結論は、それぞれの標本・期間・前提の範囲でのみ成立します。

出典一覧