トレーリングストップという損切りの置き方は、平均的なリターンを高めると学術研究で報告されていますか
結論
いいえ。Dai et al. (2021) は、トレーリングストップの平均リターンが比較対象のベンチマークに 劣後する一方、総リスクと下方リスクは低下したと報告しています。リターンを高める手段ではなく、 リスクを抑える手段として報告されています。
Dai, Marshall, Nguyen & Visaltanachoti (2021) は、高値の上昇に合わせて売却の発動価格を 引き上げていくトレーリングストップを、CRSPの米国普通株(1926年7月〜2016年12月の 日次データ)で検証しています。
結果は、平均リターンと総リスク・下方リスクとで向きが分かれました。平均リターンは 平均分散最適ベンチマークに対して劣後する一方、総リスクと下方リスクは低下し、この低下は 下落局面で特に大きかったと報告されています。
取引費用を考慮すると、幅の狭いトレーリングストップの利点は減りますが、幅の大きいルールは 費用考慮後も有用性が残ったとされています。
Leung & Zhang (2019) は、トレーリングストップを課した状態での最適な売り方を理論的に解き、 トレーリングストップだけに任せるのではなく、指値売り注文を併用することが最適だと 証明しています。ただし特定の市場データで成績を検証した研究ではなく、仮定した価格モデルの 下での数理的な結論です。
- 平均リターンは、トレーリングストップを使わないベンチマークに劣後すると報告されている
- 総リスクと下方リスクは低下すると報告されている。下落局面で低下が特に大きい
- 取引費用を考慮すると、幅の大きいルールに限り有用性が残ると報告されている
「リターンを高める」ではなく「リスクを抑える」手段として報告された結果であり、この報告を 根拠にリターン向上を期待することはできません。
参照した研究
- 平均リターンは劣後しリスクは低下すると報告 台帳のレコードを見る
- 指値注文の併用が理論上最適と証明 台帳のレコードを見る
限界
標本はCRSPの米国普通株であり、日本市場・レバレッジ型商品・信用取引の金利や諸費用は 検証の対象に含まれていない。Leung & Zhang (2019) は特定市場データの実証ではなく理論研究である。