実売買データでは費用は小さいが、短期リバーサルだけは規模に耐えないと報告した研究
Trading Costs of Asset Pricing Anomalies
Andrea Frazzini、Ronen Israel、Tobias J. Moskowitz(2012)『ワーキングペーパー(AQR Capital Management / SSRN)』
著者ページ(NYU Stern, Andrea Frazzini)掲載の全文PDF(2012年12月5日稿) AQR Capital Management ワーキングペーパーのページ SSRNページ(DOI) 後続のワーキングペーパー『Trading Costs』(2018年、SSRN)
ひとことで言うと
大手機関投資家の実売買データから費用を推定し、短期リバーサルだけが取引費用に最も強く制約されると報告したワーキングペーパー。
図で読む:この研究は何を比べたか
同じ費用推定でも、戦略ごとに耐える規模が違う
サイズ・バリュー・モメンタム
相当な規模でも費用控除後に成立し、費用最適化の恩恵も大きい。
同じ実売買データから推定した費用を、どの戦略に当てるか
短期リバーサル
取引費用による制約が最も強く、費用最適化の恩恵も小さい。
費用の壁の高さは戦略ごとに異なり、短期リバーサルが最も厳しい
利益への距離
- 観測された差
-
確認された
短期リバーサルを含む各アノマリーの費用控除前の存在は前提として扱われている。
- 取引費用
-
一部のみ
短期リバーサルは、相応の規模では費用控除後に成立しにくいと報告されている。
- 再現性
-
未確認
特定の機関投資家1社の執行データに依存し、追試は本レコードでは評価していない。
- 日本市場
-
未確認
確認した抄録は日本市場を切り出した結果を示していない。
研究で観測された差は、そのまま得られる利益ではありません。4つの関門はそれぞれ独立に読んでください。
この研究を読み解く
何を知りたかったのか
アノマリーの収益が費用で消えるかどうかは、費用をどう見積もるかに左右されます。従来の研究は市場全体の気配や約定データから費用を推計してきましたが、実際に大きな資金を動かす運用者が支払っている費用は、それより小さいかもしれません。実際の執行データで測ると、どの戦略がどこまでの規模に耐えるのでしょうか。
どうやって調べたのか
1998年から2011年に19の先進国株式市場で執行された、大手機関投資家の約1兆ドル規模の売買データを使います。実際の約定に加え、当初意図した売買も記録されているため、執行できなかった分の機会費用を含む実装コストを測れます。ここから価格インパクトの関数を推定し、サイズ、バリュー、モメンタム、短期リバーサルの各戦略に適用して、費用控除後のリターンと損益分岐となる運用規模を計算します。
何が分かったのか
推定された取引費用は、先行研究が示してきた水準の10分の1未満でした。その結果、各戦略が費用に耐えられる運用規模は1桁以上大きくなります。ただし戦略ごとに差があり、バリューとモメンタムは費用を織り込んだ構築の恩恵が大きい一方、短期リバーサルは相応の規模では費用控除後に成立せず、最適化による改善も小さいと報告されています。
この結果をどう読めばよいか
アノマリー全般については費用の壁が想定より低いという主張ですが、短期リバーサルはその例外として扱われています。費用の推定は特定の大手機関投資家1社の執行データに基づくため、個人が負担する手数料・スプレッド・貸株料の条件とは前提が異なります。査読誌への掲載は確認できておらず、後続のワーキングペーパーが存在します。日本市場を切り出した結果は抄録にありません。
- 対象市場
- グローバル・米国
- 標本期間
- 1998
〜2011 - 対象銘柄群
- 大手機関投資家の実際の執行データ(19の先進国株式市場、約1兆ドル規模の売買)。これを用いてサイズ、バリュー、モメンタム、短期リバーサルの各戦略の費用と純リターンを評価している。
- 観測頻度
- 実約定単位
- 再現性
- 未評価査読誌への掲載は確認できておらず、ワーキングペーパーとして扱う。費用の推定は特定の大手機関投資家1社の執行データに依存しており、他の執行主体・期間での再現は本レコードでは評価していない。
- 日本市場での有効性
- 未評価標本は19の先進国株式市場とされているが、確認した抄録は日本市場を切り出した結果を示しておらず、日本市場での成立は評価していない。
観測結果
実売買データによる取引費用の推定
実際の執行データから推定した取引費用は先行研究が示す水準の10分の1未満であり、そのため各戦略の潜在的な規模は1桁以上大きいと報告している。。
効果量未掲載(net_of_costs)
抄録は「10分の1未満」「1桁以上」という比較表現で述べており、単一の効果量に換算できないため数値を収録しない。水準は原典の表定義を参照。
短期リバーサルの位置付け
戦略ごとに結果は異なり、バリューとモメンタムはサイズより規模を拡大しやすい一方、短期リバーサルは取引費用による制約が最も強いと報告している。。
効果量未掲載(net_of_costs)
抄録は戦略間の相対的な順序を述べ、損益分岐となる運用規模の水準は本文で示されている。数値は原典本文を参照。
費用を織り込んだ構築の効果
取引費用を減らすよう設計した構築は、スタイルの性質を大きく変えることなく純リターンと収容規模を高められると報告している。ただし短期リバーサルはこの最適化から得られる改善が小さいとしている。。
効果量未掲載(net_of_costs)
改善幅とトラッキングエラーとの兼ね合いは抄録に数値で示されておらず、原典の表定義を参照。
効果量は原典の掲載値です。当サイトが再計算したものではなく、将来のリターンを示すものでもありません。
追試の記録
この結果を追試した研究として、当サイトが台帳に持っているレコードです。
- 同じ論点を推定モデルに基づく費用で検証し、大型株と低回転の構築なら費用控除後も反転利益が残ると報告した研究であり、短期リバーサルの実行可能性について結論が分かれている。 関連研究のレコードを見る
- 短期反転の利益が想定される取引費用を下回ると報告した先行研究であり、本研究の実売買データによる推定の追試ではない。 関連研究のレコードを見る
「独立研究」は原典と著者が重ならない研究、「同一著者」は原典の著者を含む研究です。追試の件数は網羅ではありません。
限界
原典の設計上、この結果をそのまま一般化できない条件です。
原典と利用条件
- 著者ページ(NYU Stern, Andrea Frazzini)掲載の全文PDF(2012年12月5日稿)https://pages.stern.nyu.edu/~afrazzin/pdf/Trading%20Cost%20of%20Asset%20Pricing%20Anomalies%20-%20Frazzini,%20Israel%20and%20Moskowitz.pdf
- AQR Capital Management ワーキングペーパーのページhttps://www.aqr.com/Insights/Research/Working-Paper/Trading-Costs-of-Asset-Pricing-Anomalies
- SSRNページ(DOI)https://doi.org/10.2139/ssrn.2294498
- 後続のワーキングペーパー『Trading Costs』(2018年、SSRN)https://doi.org/10.2139/ssrn.3229719