結論

違うと報告されています。収益率を日中とオーバーナイトへ分けて裾リスクを検定した研究では、 有意な裾リスクはオーバーナイト側にだけ検出され、日中側には検出されませんでした。 どちらの時間帯が有利かを比較した研究は台帳にありません。

保有を翌日へ持ち越すか、日中のうちに閉じるかという選択の手前に、 そもそも夜間と日中でリスクの現れ方が違うのかという観測の問いがあります。 台帳の研究は、この非対称については報告していますが、どちらを選ぶかについては 報告していません。

Riedel & Wagner (2015) は、米国、フランス、ドイツ、日本の主要株式市場の収益率を、 取引時間中の日中成分と非取引時間のオーバーナイト成分へ分解しました。条件付き分散には GARCHモデルを、収益率のイノベーションの分布には一般化パレート分布を当てはめ、 厚い裾かどうかと、日中とオーバーナイトの裾指数が等しいかどうかを検定しています。 その結果、有意な裾リスクはオーバーナイトのイノベーションに検出された一方、 日中のイノベーションには検出されませんでした。

同じ研究は、オーバーナイトの下方リスクが中程度のボラティリティ・リスク成分と有意な 裾リスク成分から構成されると報告し、条件付きバリュー・アット・リスクの計算で示すと、 ボラティリティだけに基づくリスク評価はオーバーナイトの下方リスクを大幅に過小評価すると 結論しています。リスクをどの尺度で測るかによって、日中と夜間の順序が入れ替わり得る という指摘です。なお日本市場は対象4市場に含まれますが、台帳が確認した抄録に市場別の 推定値は示されておらず、報告された結論は4市場をまとめたものです。

取引時間中の変動については、Andersen, Bollerslev & Cai (2000) が日経225現物指数の 5分足で、前場と後場それぞれの始まりと終わりで絶対収益率が高い二重U字型を報告しています。 この分析では、夜間情報の反映で変動が突出する09:00〜09:05の初回収益率が除外されています。 夜間に生じた情報が寄り付きへ集中して現れることは、標本の作り方そのものに織り込まれて いるかたちです。ただしこれは変動の大きさの観測であり、裾リスクの検定とは別の測定です。

夜間の値飛びを扱った研究としては、Arratia & Dorador (2019) があります。 オーバーナイトギャップとフラッシュクラッシュを、ランダムウォーク・自己回帰・ レジームスイッチングという複数の価格モデルへ組み込んだうえで、四種類の損切り実装を 評価し、上昇局面では多くの指標で期待リスク調整後リターンが改善し、下落局面では 期待リターンの絶対値が改善したと報告しています。実市場の売買記録ではなく、 価格モデル上での評価です。

  • 裾リスク(極端な損失の起きやすさ)で測ると、有意な裾リスクはオーバーナイト側にだけ検出されたと報告されている
  • ボラティリティだけで測ると、オーバーナイトの下方リスクは大幅に過小評価されると報告されている
  • 夜間の窓開けを組み込んだ検証はあるが、実市場の売買記録ではなく価格モデル上の評価である
  • 持ち越すか日中で閉じるかを比較し、費用を差し引いた後にどちらへ何が残るかを検証した研究は台帳にない

観測されているのはリスクの出方の非対称であり、どちらの時間帯に持ち高を置くのが 結果として良いかという比較ではありません。Riedel & Wagner (2015) はリスクの測定であって、 収益がどちらの時間帯で得られるかを検証した研究ではありません。

参照した研究

限界

Riedel & Wagner (2015) は日本市場を対象4市場に含むが、台帳が確認した抄録には標本期間・ 指数名・市場別の推定値の記載がなく、日本市場についての個別の数値は確認できていない。 Arratia & Dorador (2019) は実市場の標本ではなく価格モデルによる評価である。日本の レバレッジ型ETF(1570等)の持ち越しは、いずれの研究の標本にも含まれておらず、 取引費用・信用取引の諸費用・税を差し引いた後の評価も行われていない。