決算後ドリフトの輪郭

利益サプライズとは、発表された利益と、発表前に期待されていた利益との差です。決算後ドリフトは、この差が大きくプラスだった企業では発表後にも株価が同じ方向へ動き、マイナスだった企業では反対方向への動きが続く現象として扱われます。

ここで重要なのは、「利益サプライズ」という言葉だけでは測定方法が決まらないことです。事前の期待利益を何から作るかによってサプライズの値は変わります。また、株価の継続的な動きを確認できても、その計算上の収益と実際の売買費用を差し引いた成績は別に検討する必要があります。

今回扱う4本も同じ設計ではありません。流動性による違いを調べた研究、取引コストとの関係を調べた研究、サプライズ尺度を比較した研究、別の会計異常との関係を切り分けた研究です。標本期間も1972年から2005年までを含む研究から、1988年から1997年を対象とした研究まで異なります。

そのため、4本は「同じ問いを4回検証した記録」ではなく、決算後ドリフトの周辺にある別々の問いを扱った研究として読む必要があります。以下では、それぞれが何を測定したのかを分けて確認します。

流動性別の粗収益

Tarun Chordia、Amit Goyal、Gil Sadka、Ronnie Sadka、Lakshmanan Shivakumarによる2009年の研究は、Financial Analysts Journalに掲載された「Liquidity and the Post-Earnings-Announcement Drift」です。標本は1972年〜2005年の米国市場で、NYSE・AMEX・NASDAQの四半期利益発表と流動性データを使っています。

この研究では、標準化予想外利益とAmihud非流動性指標で企業を二重分類しました。Amihud指標は、価格変化を売買代金で割り、売買しにくさを測る指標です。そのうえで利益サプライズ上位を買い、下位を売るポートフォリオを作り、複数の取引費用推定を使って粗収益と実装後を比較しました。

台帳に記録された結果では、取引費用などを差し引く前の粗収益は、最も流動的な企業群では小さく、非流動的な群ほど大きくなりました。一方で、推定取引コストも非流動的な銘柄ほど重くなり、潜在利益の大部分を占めました。コスト控除後では戦略が利益を生みにくいという結果です。

この研究で流動性は、ドリフトの大きさだけに関係する変数ではありません。売買しにくさが、観測される粗収益と取引費用の双方に関係していました。台帳は、低流動性群の大きな粗収益をそのまま利用可能な利益として扱う解釈に注意を付けています。

費用控除後の成績

Jeffrey Ng、Tjomme O. Rusticus、Rodrigo S. Verdiによる2008年の研究は、Journal of Accounting Researchに掲載された「Implications of Transaction Costs for the Post–Earnings Announcement Drift」です。標本は1988年〜2004年の米国市場で、米国企業の四半期利益発表と市場マイクロ構造データを結び付けています。

研究では、四半期決算の利益サプライズ、発表時リターン、発表後リターンを、取引コストが異なる企業群の間で比較しました。ここでいう取引コストには手数料だけでなく、売値と買値の差や、取引が価格へ与える影響も含まれます。さらに、戦略の総収益とコスト控除後を分けて調べています。

台帳では、取引コストが高い企業ほど決算発表時の価格反応が弱く、その後のドリフトが大きかったと記録されています。しかし同じ企業群では売買費用も高く、見かけの戦略利益はコスト控除後に大幅に縮みました。

この結果が示すのは、価格反応の遅れと裁定の難しさが同時に観測されていることです。ドリフトの大きさだけを取り出すと、実行時に伴う費用という別の要素が抜けます。研究1と研究2は設計が異なりますが、どちらも粗い収益指標と取引費用を分けて扱っています。

サプライズ尺度の差異

Joshua Livnat、Richard R. Mendenhallによる2006年の研究は、Journal of Accounting Researchに掲載された「Comparing the Post-Earnings Announcement Drift for Surprises Calculated from Analyst and Time Series Forecasts」です。標本は1987年〜2002年で、I/B/E/SとCompustatを利用できる米国企業の四半期データを対象としています。

この研究が比較したのは、利益サプライズの二つの作り方です。一つは実際の利益とアナリスト予想との差、もう一つは過去利益から作る時系列予想との差です。それぞれの尺度で企業を捉えたときの発表後リターンを比較し、利益修正や特別項目が差を生むかも検証しました。

台帳の記録では、アナリスト予想基準のサプライズを使った場合、時系列予想基準より決算後ドリフトが有意に大きくなりました。その差はデータの修正や特別項目では十分説明されず、将来の決算周辺で観測されるリターン形状にも違いがありました。

ここで測られたのは、サプライズ尺度によって観測されるドリフトの大きさが異なるという関係です。台帳は、予想の公開時点、欠測企業、データ更新をそろえる必要性も記録しています。また、アナリスト予想を利用できる企業自体に選択の偏りがあるため、対象企業の範囲も研究結果を読む際の条件になります。

アクルーアルとの分離

Daniel W. Collins、Paul Hribarによる2000年の研究は、Journal of Accounting and Economicsに掲載された「Earnings-based and accrual-based market anomalies: one effect or two?」です。標本は1988年〜1997年の米国上場企業で、四半期の会計データと株価データを使っています。

研究では、予想外利益だけでなく、アクルーアルと営業キャッシュフローでも企業を分類し、それぞれの将来リターンを比較しました。アクルーアルとは、利益のうち当期の現金収支を伴わない会計上の調整部分です。さらに、決算後ドリフト側のシグナルとアクルーアル側のシグナルを組み合わせたポートフォリオも評価しています。

台帳では、市場がアクルーアルの持続性を過大評価し、キャッシュフローを過小評価するように見えると記録されています。そして、この誤価格は決算後ドリフトとは別の効果として現れ、両方を組み合わせたポートフォリオでは単独より大きな異常リターンが示されました。

ここでいう「別の効果」は、統計的に増分情報が確認されたという意味です。心理的な原因が二つ存在すると証明したものではありません。また、異常リターンの大きさは、期待収益モデル、会計項目の測定、取引費用の扱いによって変わります。

4研究の未評価領域

4本を並べると、決算後ドリフトを一つの角度だけで調べていないことが分かります。研究1は流動性と粗収益、研究2は取引コストと価格反応、研究3はサプライズ尺度、研究4はアクルーアル異常との統計的な切り分けを主に扱っています。それぞれ標本期間、測定対象、方法が違います。

また、4本とも標本は米国市場です。日本市場で同じ関係が成立するかについて、このサイトの台帳は未評価です。現在の日本株の市場構造、取引費用、予想データを前提とした結果として読み替えるための記録も、この4本には含まれていません。

再現性についても、台帳では4本相互の関係を独立した別標本による追試として評価していません。したがって、「査読誌掲載の研究が4本ある」という本数と、「同じ結果が独立に何回再現されたか」という確認回数は分けて扱う必要があります。

さらに、研究3と研究4は、取引費用を差し引いた後の投資成績を主題にしていません。研究1と研究2には費用を考慮した分析がありますが、その費用推定は歴史的な米国市場を前提としています。4本から確認できるのは、それぞれの条件下でどの関係が観測されたかという研究記録です。そこから先の市場、時期、執行条件まで含めた評価は、台帳上では別の検証領域として残っています。

本記事は研究の紹介であり、売買推奨や投資助言ではありません。決算後ドリフトの大きさや取引コストの影響は標本・期間によって異なり、本記事の内容を特定の売買判断へ結び付けるものではありません。

研究ページ — Chordia・Goyal・Sadka・Sadka・Shivakumar(2009年)

研究ページ — Ng・Rusticus・Verdi(2008年)

研究ページ — Livnat・Mendenhall(2006年)

研究ページ — Collins・Hribar(2000年)

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出典一覧