短期リバーサルと取引費用をめぐる4研究
「下がった株を買い、上がった株を売る」という短期逆張りは、研究では短期の「リバーサル(反転)」として扱われてきました。本記事では、取引費用を考慮すると反転利益が残るのかという問いについて、結論の異なる2本の研究と、その分析を支える流動性測定の研究2本を紹介します。
短期逆張りの研究
短期リバーサルの研究では、過去に下落した株式と上昇した株式のその後の値動きを調べ、価格が短期間で反転する現象を検証します。こうした反転から逆張り戦略の潜在利益を計算する研究では、売買回数が増えるほど取引費用の扱いも結果を左右します。
ここで紹介する2本の研究は、短期反転そのものに加えて、流動性や銘柄規模、売買回転率、取引費用を考慮しています。その結果、費用を差し引いた後の評価について異なる結論を報告しています。
非流動性と反転
Avramov・Chordia・Goyal(2006年)は、Journal of Financeで、NYSE・AMEX上場株を対象に1962年から2002年までの週次・月次データを調べています。
Avramov・Chordia・Goyalは、短期の反転を示す負の系列相関が株式の非流動性と密接に関係し、取引高を制御した後にもその関係が残ると報告しています。また、最大の反転と逆張りの潜在利益は、高回転かつ低流動性の銘柄で生じるとしています。
一方で、Avramov・Chordia・Goyalは、逆張り戦略から計算される潜在利益が想定される取引費用より小さいと報告しています。そのうえで、短期反転による効率的市場仮説からの逸脱は深刻ではないと結論づけています。効果量の数値は台帳に採録されていません。
大型株で残る利益
de Groot・Huij・Zhou(2012年)は、Journal of Banking & Financeで、米国株と欧州株を対象に1990年から2009年までの週次データを分析しています。取引費用にはKeim–Madhavanモデルによる推定値と、野村證券が提供した四半期推定値を用いています。
de Groot・Huij・Zhouは、取引費用の影響が小型株の過度な売買に大きく起因すると報告しています。そして、大型株に対象を限定し、売買回転率を抑えた条件では、費用控除後にも週30〜50ベーシスポイントの反転利益が残ると報告しています。
さらに著者らは、費用控除後にも統計的に有意な反転利益が残ることは、標準的な合理的資産価格モデルへの課題になると述べています。Avramov・Chordia・Goyalの結果との違いは、対象期間や市場、銘柄規模、売買回転率、取引費用の推定方法といった条件とともに読む必要があります。ここでは、どちらの結論を正しいものとして裁定することはしません。
流動性測定の系譜
短期反転と関係する「非流動性」を測る代表的な方法として、Amihud(2002年)の研究があります。AmihudはJournal of Financial Marketsで、NYSE上場株の1964年から1997年までを対象に、絶対リターンを売買代金で割る非流動性指標を用い、将来リターンとの関係を報告しています。
Barardehi・Bernhardt・Ruchti・Weidenmier(2021年)は、The Review of Asset Pricing Studiesで、米国上場株の1993年から2016年までを対象に、日次Amihud指標が捉える価格影響を再検討しています。著者らは、日中と夜間の価格変化を分けることで、非流動性の測定力が高まると報告しています。
この2本は逆張り戦略そのものの成績を評価する研究ではありません。短期反転を流動性との関係から分析する際に、何を非流動性として測るのかという方法面の土台に位置づけられます。
適用範囲と限界
ここで紹介した4本は、すべて米国株または欧州株を対象とした研究です。日本市場や日経225関連商品について短期リバーサルが成立するかは、いずれの研究も評価していません。
また、取引費用の推定方法は研究ごとに異なります。Avramov・Chordia・Goyalは想定される取引費用と潜在利益を比較し、de Groot・Huij・ZhouはKeim–Madhavanモデルと野村證券提供の推定値を使って費用控除後の利益を計算しています。同じ「短期逆張り」を扱う研究でも、対象銘柄、回転率、市場、期間、費用推定の条件によって報告される結果が異なっています。
したがって、研究から読み取れるのは、それぞれの市場と期間、測定方法のもとで何が観測されたかという範囲です。日経225先物やETFについて検討するには、日本市場のデータを使った別の検証が必要です。
本記事は研究の紹介であり、売買推奨や投資助言ではありません。
出典一覧
- Avramov, Chordia & Goyal, Liquidity and Autocorrelations in Individual Stock Returns (Journal of Finance, 2006) — NYSE・AMEX上場株1962〜2002年の週次・月次データ、Amihud非流動性指標による短期反転と逆張り利益の分析。
- de Groot, Huij & Zhou, Another look at trading costs and short-term reversal profits (Journal of Banking & Finance, 2012) — 米国株・欧州株1990〜2009年の週次データ、Keim–Madhavanモデルと野村證券提供の取引費用推定による費用控除後の反転利益。
- Amihud, Illiquidity and Stock Returns: Cross-Section and Time-Series Effects (Journal of Financial Markets, 2002) — NYSE上場株1964〜1997年、絶対リターンを売買代金で割る非流動性指標と将来リターンの関係。
- Barardehi, Bernhardt, Ruchti & Weidenmier, The Night and Day of Amihud's (2002) Liquidity Measure (The Review of Asset Pricing Studies, 2021) — 米国上場株1993〜2016年、日中と夜間の価格変化を分けた日次Amihud指標の再検討。