問いを「売買回数」と「費用控除後の成績」に分ける

「売買を繰り返すほど資産は増えるのか」という問いには、いくつか異なる論点が含まれています。

一つは、売買頻度が高い投資家ほど高いリターンを得ているのかという点です。もう一つは、銘柄選択によって売買費用を差し引く前には利益が出ていても、その利益が取引費用を上回っているのかという点です。さらに、経験を積み、売買を長く続ければ成績が改善するのかという問題もあります。

今回取り上げる3研究は、この問いを異なる市場と標本から観測しています。米国では証券口座を持つ世帯全体の売買回転率とリターン、台湾では個人デイトレーダーの取引、ブラジルでは指数先物デイトレードへの新規参入者が調べられています。

したがって、3研究をそのまま一つの数字としてまとめることはできません。一方で、実際の口座や取引記録を用いて「頻繁に取引した人の成績がどうなったか」を確認している点は共通しています。

米国の証券口座では、売買最多層の成績が低かった

BarberとOdeanは2000年、1991〜1996年の米国大手ディスカウント証券口座66,465 世帯を調べました。

この標本では、平均的な世帯の年間売買回転率は75%でした。そして費用控除後の年率リターンは、平均的世帯が16.4%、市場が17.9%だったのに対し、売買最多層は 11.4%と報告されています。

ここで観測されているのは、「売買頻度が最も高い層ほど高いリターンを残した」という関係ではありません。少なくともこの米国標本では、売買最多層の費用控除後リターンは平均的世帯を下回っていました。

研究では、保有銘柄について高ベータ、小型、バリュー寄りという方向も報告されています。ただし、この情報だけから保有銘柄の特徴が成績差をどこまで説明したのかを補完することはできません。

また、この研究は1991〜1996年の米国一市場を対象としたものです。当サイトの研究台帳では日本市場への適用可能性は未評価であり、日本の個人投資家にも同じ数値が当てはまることを示した研究ではありません。

研究台帳 — 売買が最も多い家計ほど、費用控除後の年率リターンは低かった

台湾のデイトレードでは、粗利益があっても費用を賄えない層が多かった

Barber、Lee、Liu、Odeanは2004年のワーキングペーパーで、1995〜1999年の台湾証券取引所の全取引記録から、個人デイトレードを調べています。

台湾では、個人デイトレードが総売買高の20%超を占め、デイトレード活動の97%超が個人によるものでした。また、個人の約1%がデイトレードの半分、総取引の 4分の1を占めるという集中も報告されています。

成績を見ると、デイトレードの多い層は売買費用を差し引く前には利益を得ていましたが、取引費用を賄えなかったと報告されています。この点について当サイトの台帳で確認できるのは方向であり、費用控除によってどの程度成績が変わったかという効果量は確認されていません。

典型的な半年間では、デイトレーダーの10人中8人超が損失だったとも報告されています。ただし、今回の台帳ではこれ以上の数値化は行っていません。

一方で、この研究は「誰も継続的に成果を残せなかった」と報告しているわけでもありません。過去成績が良好だった少数層には持続性があり、その層では買った銘柄が売った銘柄を1日あたり62ベーシスポイント上回ったとされています。これは gross、つまり費用控除前の結果です。

したがって台湾の結果は、「頻繁な売買をする個人全体では取引費用が重かった」という側面と、「少数の過去成績良好層には持続性が観測された」という側面を分けて読む必要があります。

デイトレーダーの成績そのものについては既存コラムでも扱っているため、より詳しい整理はそちらに譲ります。本記事では、資産形成という観点から、売買頻度と最終的な成績の関係に絞っています。

研究台帳 — 台湾のデイトレーダーは、典型的な半年間で8割超が損失を出した

ブラジルでは、長く続けても成績改善は観測されなかった

Chague、De-Losso、Giovannettiは2020年、ブラジルCVMのデータを使い、 2013〜2015年にミニIbovespa指数先物のデイトレードを始めた新規参入者19,646人を調べました。観測期間は2012〜2017年です。

この研究では、300日超デイトレードを継続した人のうち、97%が損失に終わったと報告されています。最低賃金を上回った割合は1.1%、銀行窓口係の初任給を上回った割合は0.5%でした。

ここでの成績は、取引所と証券会社の手数料を控除した後の結果です。ただし、所得税や講座費用などは含まれていません。

資産形成の観点で特に重要なのは、継続による成績改善傾向が見られなかったという報告です。これは方向のみの確認であり、改善しなかった幅や速度といった効果量は当サイトの台帳では確認されていません。

この結果から言えるのは、このブラジルの新規参入者標本では「長く続ければ成績が改善した」というパターンが観測されなかったということまでです。他の市場や別の取引手法について同じ結果になることまでは示していません。

研究台帳 — デイトレードを続けた個人の97%が、損失に終わった

3研究で確認されたことを並べる

3研究が報告した、売買頻度・継続と成績の関係
研究 標本 売買頻度・継続と成績についての報告
Barber・Odean(2000) 米国、1991〜1996年、大手ディスカウント証券66,465世帯 売買最多層の費用控除後年率リターン11.4%。平均的世帯16.4%、市場17.9%。平均世帯の年間売買回転率75%
Barber・Lee・Liu・Odean(2004) 台湾、1995〜1999年、台湾証券取引所の個人デイトレード デイトレードの多い層は粗利益を得たが取引費用を賄えなかった。効果量は確認されていない。典型的な半年間で10人中8人超が損失。一方、過去成績良好な少数層には持続性があり、買い銘柄が売り銘柄を1日あたり62ベーシスポイント上回った(gross)
Chague・De-Losso・Giovannetti(2020) ブラジル、2012〜2017年、指数先物デイトレード新規参入者19,646人 300日超継続者の97%が損失。最低賃金超は1.1%、銀行窓口係初任給超は0.5%。継続による成績改善傾向は見られず、改善幅などの効果量は確認されていない

3研究に共通しているのは、「取引回数を増やしたこと自体が、個人投資家全体の高い費用控除後成績につながった」という報告が確認できない点です。

ただし、結果を「頻繁に売買する人は必ず負ける」と読み替えることもできません。台湾では過去成績良好な少数層の持続性が報告されています。また、米国研究は一般の証券口座、台湾研究は株式デイトレード、ブラジル研究は指数先物デイトレードを扱っており、観測対象も同一ではありません。

口座データが示しているのは、売買機会の多さだけではなく、取引費用を差し引いた後に何が残ったかまで見る必要がある、という事実関係です。

日本市場への距離

今回確認した研究は、米国、台湾、ブラジルのデータを使ったものです。当サイトの研究台帳では、3研究とも日本市場への適用可能性は評価されていません。

したがって、日本の証券口座で売買頻度の高い投資家が同じ成績になること、日本株のデイトレードで同じ割合の損失者が出ること、日本の取引制度や費用の下でも同じ関係になることは、この3研究からは確認できません。

また、3研究は対象も異なります。米国研究は世帯単位の証券口座、台湾研究は株式の個人デイトレード、ブラジル研究は指数先物デイトレードへの新規参入者です。長期の資産形成そのものを同一条件で比較した研究群ではありません。

そのため、この研究群から日本の個人投資家に対する売買方法を導くことはできません。確認できるのは、実際の海外口座・取引データでは、売買頻度の高い層や長期継続者について、頻繁な取引そのものが高い費用控除後成績につながったという一貫した報告はなく、一方で台湾では少数の過去成績良好層に持続性も観測されている、という範囲です。

関連記事 — デイトレードの成績は口座データで何が観測されたか

本記事は査読誌等に掲載された研究および公開ワーキングペーパーの一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。各研究の結論は、それぞれの標本・期間・前提の範囲でのみ成立します。

出典一覧