レバレッジ型ETFを1日で手放せば、複利による減価の影響は避けられると学術研究で報告されていますか
結論
切り分けが必要です。保有期間が1週間までなら追跡誤差は小さいと報告されている一方、 純資産価値からの価格乖離や資金調達費用は保有期間の長短とは別の経路で生じると 報告されており、1日で手放せば無関係になるとは示されていません。
「レバレッジ型ETFの減価は複利の経路依存によるものだから、1日で手放せば関係ない」という 整理を目にすることがあります。台帳の研究を突き合わせると、この整理は半分は研究の報告と 整合し、半分は研究が扱っていない範囲へ踏み込んでいます。複利の経路依存と、それ以外の 乖離の経路は、別々に報告されているためです。
まず複利の経路依存です。Avellaneda & Zhang (2010) は、レバレッジ型ETFの期間リターンを 原指数の期間リターンの倍数と、その期間の実現分散で表す厳密な関係式を導きました。 乖離の大きさを決めるのは、原指数が期間中にたどった経路(実現分散)だという定式化です。 したがって、この経路が効く余地は、測る期間の取り方に依存します。
保有期間別の実測を報告しているのが Charupat & Miu (2011) です。カナダ市場に上場した レバレッジ型ETF8本について、保有期間別のリターンをベンチマーク・リターンへ回帰した結果、 追跡誤差は1週間までの保有期間では小さく表示倍率どおりのリターンをおおむね実現する一方、 1か月ではベア型を中心に離れ始め、1か月を超えると表示倍率から大きく外れると報告されています。 複利の経路依存が保有期間の長さで効いてくるという方向は、ここで実証されています。
ところが同じ研究は、保有期間とは別の乖離も報告しています。終値の純資産価値からの乖離は 平均では小さいものの、大きなプレミアムやディスカウントが生じやすく、ブル型は平均で ディスカウントか小幅のプレミアム、ベア型はより大きなプレミアムという違いがありました。 これは何日持ったかではなく、売買した時点の価格が純資産価値からどれだけ離れていたかという 別の経路です。
さらに Bansal & Marshall (2015) は、レバレッジ型ETFの追跡誤差を、トレンド要素、 変動(ボラティリティ)要素、金利(資金調達費用)要素、運用要素の4つへ完全に分解する 枠組みを示しました。レバレッジを作るための資金調達費用と運用に伴う費用・便益は、 従来の多くの研究で無視されてきたが追跡誤差を生む要素だと位置づけられています。 S&P500連動2倍ETFのSSOへ2011年10月末から2014年10月末まで適用した例では、月次の平均 追跡誤差は負ではなく正であり、成績が必ず投資家の期待を下回るという従来の主張とは 向きが異なったとされています。
複利効果そのものの向きも、一方向には報告されていません。Charupat, Ma & Miu (2022) は 非対称ボラティリティを組み込むと、ボラティリティの高さが常に不利に働くわけではなく 市場環境しだいだと報告し、Hsieh, Chang & Chen (2025) は成績を決めるのはボラティリティの 高さではなくリターンの自己相関を含む動学的な性質だとしています。「長く持つと必ず減る」が 条件つきである以上、その裏返しである「1日なら関係ない」も、そのままでは研究の結論に なっていません。
- 追跡誤差は1週間までの保有期間では小さく、1か月を超えると表示倍率から大きく外れると報告されている(カナダ上場8本)
- 終値の純資産価値からの乖離は平均では小さいが、大きなプレミアム・ディスカウントが生じやすいと報告されている。これは保有期間の長短とは別の経路である
- 追跡誤差の分解には資金調達費用の要素が含まれ、これも保有期間の長短とは別に働くと整理されている
- 「1日以内で手放せば商品固有の乖離は生じない」という命題そのものを検証した研究は台帳にない
台帳の研究が扱っているのは、複利の経路依存が保有期間とともにどう効くか、 そして追跡誤差がどの要素から生じるかです。1日以内で手放した場合の投資家の手取りを 直接検証した研究は台帳にありません。
参照した研究
- 乖離は保有期間中の実現分散に依存すると定式化 台帳のレコードを見る
- 追跡誤差は1週間までは小さく1か月超で拡大すると報告 台帳のレコードを見る
- 追跡誤差に資金調達費用の要素を含めて分解 台帳のレコードを見る
- 高ボラティリティが常に不利とは限らないと報告 台帳のレコードを見る
- 複利効果の向きはリターン動学で決まると報告 台帳のレコードを見る
限界
標本は米国上場およびカナダ上場のレバレッジ型ETFであり、日本のレバレッジ型ETF(1570等)は いずれの研究の検証対象にも含まれていない。投資家側の売買手数料・信用取引の諸費用・税を 差し引いた後の手取りも、これらの研究では扱われていない。1日以内で手放した場合の成績を 直接検証した研究も台帳に無い。