SQ日前日に日経225オプションを売れば、追証リスクがなく統計的に利益を得られると研究で示されていますか
結論
そのようには示されていません。米国では満期直前の売り収益が平均で正だった標本がありますが、最終1日はジャンプ感応度と最悪損失も悪化しました。日経225の取引最終日も売り建玉は証拠金計算対象です。
Tosi & Ziegler (2017) は、1996年1月から2015年8月までのS&P 500指数オプションを調べ、満期1日前から満期までのOTMプット売りが標本平均では正の収益だったと報告しました。一方で、最終1日の標準偏差は5.39%、最悪リターンはマイナス14.42%でした。著者らは、満期接近時にはボラティリティよりジャンプ・リスクの影響が強まると解釈しています。
この収益率は受け取ったオプション・プレミアムを分母にしており、必要証拠金や口座資産全体を分母にした収益率ではありません。研究本文も、証拠金によって裸売りやデルタヘッジ売りへ配分できる資産が制約されると述べています。平均収益だけから追証を含む口座全体の期待値は読み取れません。
Broadie, Chernov & Johannes (2009) は、S&P 500先物オプションの大きな平均収益について、オプション特有の非線形な損益と極端事象の少なさを考慮すると、標準的なモデルに対する統計的に有意な異常とはいえないと報告しました。Bakshi & Kapadia (2003) の結果も、売り手側のプレミアムを無条件の利益ではなく、ボラティリティ・リスクの補償と読む方向です。
Karolyi (1996) は日本の先物・オプション満期周辺を調べ、満期前後の原資産価格の反転は 0.1%未満で統計的に有意ではなく、典型的なスプレッドや手数料、市場インパクトを賄うほどではなかったと報告しました。ただし、これはSQ前日の裸のオプション売りを検証した研究ではありません。
JPX・JSCCの制度では、日経225オプションに先物のような日々の値洗差金授受はありません。しかし、売り建玉には証拠金が必要で、通常の証拠金計算ではSQ算出日の前営業日まで、日中・緊急証拠金ではSQ日まで計算対象です。受入証拠金が所要額を下回れば追加差入れの対象になります。反対売買できない場合、SQ日の始値ギャップ、ITMの自動決済も残ります。
- 満期直前の平均収益が正だった米国標本はあるが、同時にジャンプ感応度と最悪損失も悪化した
- オプション売りのプレミアムは、ボラティリティや左裾のリスクを負担する対価として報告されている
- 日経225の取引最終日も売り建玉は証拠金計算対象で、追加差入れの制度は残る
- 日経225のSQ前日売りを、証拠金・費用込みで直接検証した収録研究はない
「値洗差金の授受がない」と「証拠金不足や追加差入れが起きない」は別の制度上の命題です。
参照した研究
- 満期直前の平均収益とジャンプ感応度・最悪損失を報告 台帳のレコードを見る
- 極端事象を考慮すると高い平均収益の有意性が崩れると報告 台帳のレコードを見る
- オプション収益を負の市場ボラティリティ・プレミアムと関連づけた 台帳のレコードを見る
- 日本の満期日前後に有意な原資産価格反転を確認しなかった 台帳のレコードを見る
- 観測上の裁定機会が費用と執行遅延で大幅に減ると報告 台帳のレコードを見る
限界
満期直前の売り収益研究は米国S&P 500オプション、日本研究は満期周辺の原資産変動またはプット・コール・パリティが対象です。日経225のSQ前日に裸のオプションを売る戦略を、日本の証拠金、追加差入れ、スプレッド、税、SQ始値ギャップまで含めて直接検証した研究ではありません。