結論

費用を差し引いた後に成績が下がる方向で報告されています。米国の世帯データでは売買が最も 多い層の年率リターンが11.4%で市場の17.9%を下回り、韓国のデイトレーダーでも収益性は 取引頻度と負の相関を示したとされています。

Barber & Odean (2000) は、米国の大手ディスカウント証券に口座を持つ66,465世帯の普通株の 保有と売買を1991年から1996年まで追跡しました。この研究はデイトレードに限定した標本では なく、個人投資家全体の売買頻度と成績を対象としています。費用を含める前の段階では売買が 多い世帯と少ない世帯の成績差はほとんどなく、手数料と売買スプレッドを控除すると差が 開きました。売買が最も多い層の年率リターンは11.4%で、抄録が比較の基準として示す市場の 17.9%を下回り、平均的な世帯は年率16.4%、年間の売買回転率は75%でした。

Lee, Park & Jang (2007) は、2003年の韓国証券取引所のデイトレーダーを対象に、 デイトレードの収益性が取引規模、1日の取引時間の長さ、取引頻度のいずれとも負の相関を 示したと報告しています。著者らは市場インパクトコストや引け間際の手仕舞い圧力を理由として 推測していますが、相関の大きさは抄録に示されておらず、向きだけが報告されています。

費用の側から見ると、Frazzini, Israel & Moskowitz (2012) は1998年から2011年に19の 先進国株式市場で執行された大手機関投資家の約1兆ドル規模の実売買データを用い、取引費用が 先行研究の推定の10分の1未満であり、各戦略が費用に耐えられる運用規模は1桁以上大きいと 報告しています。ただし戦略ごとの差は大きく、頻繁な売買を要する短期リバーサルだけは 取引費用による制約が最も強く、費用を織り込んだ構築による改善も小さいとされています。

売買頻度そのものではなくレバレッジを説明変数とした研究も、費用が経路の一つだと報告して います。Subrahmanyam, Tang, Wang & Yang (2024) は、先物ブローカーの日中約定データで implied leverage が全投資家を通じて成績と負の関係にあり、取引費用の増加と追証による 強制決済がその一因だとしています。ただしスキル別に分けると、未熟な投資家では損失が 増幅し、熟練投資家ではリターンが高まるという逆向きの結果も同時に報告されています。 Ladley, Liu & Rockey (2020) は、追証の担保要件そのものが信用取引の期待リターンを 理論的に負にすると示しています。これら2本は売買頻度を直接の説明変数とした検証では ありません。

  • 費用を含める前では売買頻度による差はほとんどなく、手数料とスプレッドを控除した後に差が開いたと報告されている
  • 韓国のデイトレーダーでも、収益性は取引頻度・取引規模・取引時間の長さと負の相関を示したと報告されている
  • 実売買データで測ると取引費用の水準は先行研究より小さいが、頻繁な売買を要する短期リバーサルは費用制約が最も強い戦略として扱われている
  • レバレッジと成績の負の関係についても、取引費用の増加が原因の一部として挙げられている

ここで観測されているのは、売買回転率の高い層ほど費用控除後の成績が低かったという 層どうしの関係です。同じ投資家が売買の回数を変えたときに成績がどう動くかという因果を 検証した研究は、研究検証台帳に収録されていません。「頻度を下げれば成績が上がる」ことを 示した研究もありません。

参照した研究

限界

Barber & Odean (2000) の標本は1991年から1996年の米国のディスカウント証券口座であり、 デイトレードに限定した分析ではなく、当時の手数料水準は現在と大きく異なる。Lee, Park & Jang (2007) は2003年2月から5月の韓国株式市場の4か月間に限られる。Frazzini らの費用推定は 特定の大手機関投資家1社の執行データに基づき、個人が負担する手数料・スプレッド・貸株料の 条件とは前提が異なる。いずれも日本市場の個人投資家、日経225先物、レバレッジ型ETF、 日本の信用取引の金利・諸費用を検証の対象に含んでいない。