大勢の中から後で勝者を探せば、偶然の勝者も残る

目の前に何年も勝っているように見えるトレーダーがいると、その連勝自体を技能の証拠と受け取りたくなります。しかし、観測の順序を逆にすると意味が変わります。最初から特定の人を選び、その後の成績を追ったのか。それとも、大勢が取引した結果を見た後で、成績の良かった人だけに注目したのか。この二つは同じではありません。

参加者が多数いれば、能力差がなくても結果にはばらつきが生じます。そのため、事後的に上位だけを取り出せば、そこには偶然上振れした人も含まれます。過去の勝者を発見するだけでなく、過去の情報だけで対象を選び、その後のまだ観測していない期間でも好成績が続くかを確かめなければ、技能者と偶然の勝者を分けられません。

「連勝が珍しい」という評価には、その人だけでなく、同時に何人を観測していたかが関係します。本稿では確率を仮定して再計算せず、実際の口座データで将来成績まで検証した研究を確認します。

台湾の全市場データでは、単年勝者と翌年も勝つ層が分かれた

Barber, Lee, Liu & Odeanは、台湾証券取引所の1992年から2006年までの全取引記録を使って、デイトレーダーの技能を検証しました。平均的な年に年間60万台湾ドルを超えてデイトレードを行った人は約27.7万人でした。

この約27.7万人のうち、約20%は単年で手数料と取引税を差し引いた後に正の超過リターンを得ていました。ただし著者らは、この勝者の一部は偶然によるものだとしています。「その年に利益が出た」という条件だけでは、技能者を選別するには弱いということです。

前年の成績で順位付けした層の、翌年の日次リターン
前年の順位 手数料控除前 手数料控除後
上位500人 61.3bp/日 37.9bp/日
下位層 -11.5bp/日 -28.9bp/日

Barber, Lee, Liu & Odean (2014)。台湾証券取引所の全取引記録、1992〜2006年。 bpはベーシスポイント。控除後は売買手数料と取引税を差し引いた値。いずれも前年の成績で選ばれた層の平均であり、上位500人全員が同じ成績だったことや、これから観測する個人が同じ成績を得ることを意味しない。

研究の核心は、前年の成績で順位付けし、翌年という別の期間で検証した点にあります。過去の順位が将来の成績と対応していたため、少なくとも集団としては「勝者がすべて偶然だった」という説明では足りません。一方、手数料控除後の正の超過リターンを予測可能かつ信頼できる形で得たのは全体の1%未満でした。約20%の単年勝者と、将来まで予測可能だった1%未満は、集計期間だけでなく母集団もデイトレーダー全体であり、約20%と同じ分母から絞り込んだ値ではありません。

台帳で見る 手数料控除後に継続して勝てるデイトレーダーは1%未満だった

長く続けていること自体も、技能の十分条件ではない

「長期間続けられているなら、それだけで技能があるのではないか」という読み方も検討が必要です。Chague, De-Losso & Giovannettiは、ブラジル証券取引委員会が提供したミニIbovespa指数先物のデータを使い、2013年から2015年にデイトレードを開始した19,646人を2017年まで追跡しました。

300日を超えて継続した人に限っても、97%は取引所手数料と証券会社手数料の控除後に損失でした。ブラジルの最低賃金を上回ったのは1.1%、銀行窓口係の初任給を上回ったのは 0.5%で、少数の利益者にも大きなリスクが伴ったと報告されています。所得税、取引ツール、講座費用はこの損益に含まれていません。

この標本では、取引を続けることで成績が改善する傾向も見つかりませんでした。長く続けたという事実だけでは、利益を生む技能の証明にはなりません。継続期間とは別に、費用控除後の成績と、そのために取ったリスクを見る必要があります。

台帳で見る デイトレードを続けた個人の97%が損失に終わった

今も見えている人だけを観測すると評価が変わる

勝ち続けている人を評価するときには、途中で見えなくなった人を標本から落としていないかも確認する必要があります。現在観測できる対象だけを残すと、途中で退出した対象が成績集計から消え、残った対象の印象が実態とずれることがあります。これが生存者バイアスです。

Carhartの1997年研究は、個人デイトレーダーではなく米国株式投信を調べたものです。したがって、負けたデイトレーダーの退出率を示す根拠にはできません。Carhartは生存者バイアスを除いた標本で投信の成績持続性を検証し、過去に報告された好成績の持続性の大部分が一年モメンタム効果に由来し、株式リターンの共通要因と投資費用が持続性をほぼ説明すると報告しました。説明されずに残る持続性は低成績側に集中しました。

この研究から借りられるのは、「現在残っている勝者だけを見る標本と、開始時点から全対象を追う標本では評価が変わり得る」という一般的な注意です。勝ち続ける一人の比較対象は、現在目立つ人だけではなく、同じ時点に開始した人を含む集団になります。

台帳で見る 投信の成績持続性から生存者バイアスを除いた研究

多数の候補から最高成績だけを選ぶと、成績は膨らみやすい

候補が一人ではなく多数存在し、その中から最も成績の良い対象だけを後から選ぶ場合、候補数が増えるほど、偶然によって極端に良い結果を示す対象が含まれる余地も増えます。

Bailey & López de Pradoのデフレート・シャープレシオは、この問題を戦略のバックテスト評価として扱った研究です。シャープレシオは、値動きの大きさに対してどれだけ収益を得たかを見る指標です。多数の候補から最高成績を選ぶと、選択バイアスとバックテスト過学習によってこの指標が膨らみます。そこで試行数、標本の長さ、収益の歪度と尖度、試した成績のばらつきを考慮して信頼性を補正する方法を提案しました。

これも実在のデイトレーダーを追跡した研究ではありません。特定のトレーダーの成績をこの研究だけで否定することはできません。使えるのは、多数の候補を見た後で最良の一人を選ぶほど、その好成績を額面どおりには評価しにくくなるという統計上の注意です。

台帳で見る 多数試行で膨らんだシャープレシオを補正する研究

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技能を見るなら、過去に勝ったかより将来を予測できたかを見る

勝ち続けている人を技能者と読むために重要なのは、見えている損益の大きさだけではありません。観測対象をいつ決めたか、その後の独立した期間でも結果が続いたか、コストを差し引いて成績が残るか、どの程度のリスクを取った結果なのか、同時期に始めた人を含む比較になっているかが判断材料になります。

台湾研究が強いのは、過去の成績で順位を決め、その後の成績を見る構造を持つ点です。前年上位者を翌年に検証することで、「良かった人を後から発見した」という事後選択と、「過去の情報から将来の好成績を予測できた」という現象を分離しています。

反対に、連勝記録だけが提示され、観測開始前の選抜方法、費用、リスク、途中退出者、比較対象が分からない場合、その記録が事実でも技能と運の識別材料としては不足します。問うべきなのは「この人は勝っているか」だけでなく、「まだ結果を知らない時点でこの人を選んでも、その後の優位を観測できたか」です。

運だけという説明を弱める六つの観測条件

単に勝者を見つけるのではなく、次の条件がそろうほど、「たまたま良い成績の人を事後的に見つけただけ」という説明は弱くなります。

  • 対象者や選抜基準を、将来の成績を見る前に固定している
  • 選抜に使った期間とは独立した将来期間でも成績が続いている
  • 手数料などの費用を控除した後でも成績が残っている
  • 単純な損益だけでなく、取ったリスクを考慮している
  • 現在の生存者だけでなく、同じ条件で始めた全開始者を含めて比較している
  • 多数の人や戦略から最良だけを選ぶ場合、その多重比較を補正している

条件を満たせば将来の利益が保証されるわけではありません。これらは、観測された好成績について「運だけ」という仮説をどこまで弱められるかを評価する条件です。

日本市場では未検証であり、二つの断定を避ける

ここで扱ったデイトレーダーの直接研究は、台湾市場とブラジルのミニIbovespa指数先物を対象としています。日本市場のデイトレーダーを直接測った研究は、今回の根拠に含まれていません。市場構造、商品、取引費用、対象期間が異なるため、台湾やブラジルで得られた割合を現在の日本へそのまま当てはめることはできません。

結論は、「勝っているから技能がある」でも「勝者はすべて運」でもありません。過去の勝者を発見しただけなのか、事前に選んだ対象が独立した将来期間でも費用とリスクを考慮した成績を再現したのかを分けて読む必要があります。

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本記事は学術研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。各研究の結論は、それぞれの標本、市場、期間、費用条件の範囲でのみ成立します。

出典一覧