指数が高いとき市場PERも高いか — 同時点の関係と、日経平均PERが研究に出てこない理由
「日経平均と日経PERは相関するか」という問いは、見た目は一本です。 研究の側では、同じ時点で価格と評価倍率が同じ向きに動くか、その倍率が その後のリターンを読むか、個別株の低PERか、が分かれます。 本記事は、当サイトの研究検証台帳へ収録したレコードをもとに、 最初の問い、つまり同時点の関係だけを扱います。結論を先に書くと、 米国集計では価格と利益の両方が将来配当の現在価値に寄与し、 利益側の重みが大きいと報告されています。一方で、日本経済新聞社が公表する 日経平均PERと日経平均株価の相関係数そのものは、台帳にありません。
問いの分解
指数とPERが「相関する」という言い方には、少なくとも三つが混ざります。
- 同じ時点で、指数の水準と市場PERが同じ向きに動くか(同時点の問い)
- いまの市場PERから、その後の市場リターンが読めるか(予測の問い)
- 個別銘柄の低PERは、指数全体のPERと同じ現象か(横断と時系列の問い)
利益が価格よりゆっくり動くなら、同時点の正の向きは定義のうえでも出やすいです。 研究が測定しているのは、その機械的な向きを超えて、価格と利益のどちらが 将来の配当価値を運んでいるかです。予測の問いと、個別株の横断は別記事に分けます。
価格と利益の重み
出発点になるのは、1871年から1986年の米国集計株式市場を対象にした研究です。 実質利益、実質配当、実質株価の年次系列を使い、単純な現在価値モデルが 価格の動きを説明できるかを調べています。
| 報告の切り口 | 報告された内容 |
|---|---|
| 長期の実質利益平均 | 将来の実質配当の現在価値の良い予測になる。株価の情報を加味しても成り立つ |
| 各年の最適予測 | 移動平均利益と現在の実質価格の加重平均。利益側の重みはおよそ3分の2から4分の3 |
| 単純な現在価値モデル | 強く棄却される |
| 年次リターンの変動 | 理論値と高い相関を持つが、変動は2倍から4倍 |
Campbell & Shiller (1988), The Journal of Finance 43(3) 661-676。 標本は米国集計の年次系列。2/3〜3/4 と 2〜4倍は抄録が範囲で示しており、 台帳は単一点推定として数値化していない。
同時点で指数が上がると評価倍率も上がりやすい、という観察と、 この表は両立します。価格は利益より大きく振れるので、利益がすぐには 追いつかない局面では、PERは価格と同じ向きに動きやすいからです。 研究が棄却しているのは、「価格が将来配当の現在価値そのものだ」という 単純な見方です。
同時点と予測は別の検定
評価倍率を将来リターンの予測変数として検定する研究は、同時点の相関とは 設計が違います。Campbell & Yogo (2006) は、CRSPの時価加重指数と S&P500の平滑化(過去10年)利益株価比を使い、持続性に頑健な検定を 提案しています。対象期間は到達全文で1926年から2002年です。
この研究が答えているのは、「平滑化した利益株価比は、その後の超過リターンを 予測するか」です。同じ時点の指数水準とPERがどれだけ一緒に動くかは、 報告の中心ではありません。同時点の問いと予測の問いを、同じ相関係数として 足し合わせることはできません。
日経平均PERは出てこない
読者が画面で見る日経平均PERは、日本経済新聞社が公表する特定の系列です。 台帳に収録した評価倍率の研究は、米国集計の自前系列か、個別株の益回りを使います。 Siegel (2016) が入れ替えるのも、米国株CAPEの利益定義(GAAPとNIPA)です。
| 研究 | 使う系列 | 日経平均PER |
|---|---|---|
| Campbell & Shiller (1988) | 米国集計の実質利益・実質株価(1871〜1986年) | 使わない |
| Campbell & Yogo (2006) | S&P500の平滑化利益株価比とCRSP指数 | 使わない |
| Siegel (2016) | 米国株CAPE(GAAP利益とNIPA税引後企業利益) | 使わない |
日経平均PERと日経平均株価の相関係数を直接報告したレコードは、 当サイトの研究検証台帳にありません。
したがって、「日経平均と日経PERは相関するか」への学術側の答えは、 いまの台帳ではこうなります。米国集計では価格と利益が同時に将来価値へ 寄与し、価格の変動は理論より大きい。日経平均PERという系列については、 相関係数そのものが報告されていない。
日本市場への距離
ここまでの標本は米国集計です。日本市場の指数水準と日経平均PERを 同じ設計で測った研究は、台帳に収録がありません。
- 日経平均の算出(値嵩株の影響が大きい株価平均)は、時価加重のS&P500とは別の指数である
- 日経平均PERの予想と実績、赤字企業の扱いも、これら3本の検証対象外である
- 同時点の相関係数が出たとしても、その後のリターン予測や短期売買の成績にはならない
当てはまらないことが示されているのではなく、日経平均PERという系列では 検証されていない、というのが現在の状態です。
関連する記事と問い
市場PERがその後のリターンを読むか、測り方で判定が変わるかは、別記事で対照します。
関連FAQ — 日経平均PERの相関係数は研究が直接報告しているか
本記事は査読誌等に掲載された研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言では ありません。各研究の結論は、それぞれの標本・期間・市場の範囲でのみ成立します。
出典一覧
- Campbell & Shiller, Stock Prices, Earnings, and Expected Dividends (The Journal of Finance, 1988) — 米国集計、1871〜1986年。利益側の重み2/3〜3/4、リターン変動2〜4倍の出典。
- Campbell & Yogo, Efficient tests of stock return predictability (Journal of Financial Economics, 2006) — 平滑化利益株価比の予測検定。同時点相関の研究ではない。
- Siegel, The Shiller CAPE Ratio: A New Look (Financial Analysts Journal, 2016) — 米国株CAPEの利益定義。日経平均PERではない。抄録到達。