市場に居続けると余計な判断は減るか — 「第二のプレミアム」仮説の支持範囲
持ち続けている人は、途中で売買を重ねる人より判断の回数そのものが少ない。この差に、株式の平均収益が安全資産を上回ってきた事実とは別の報酬がある、と読むのが第二のプレミアム仮説です。既存の学術用語ではなく、複数の研究を並べて組み立てた読み方であり、その効果を直接測った検証ではありません。通常の株式を持ち続ける話と、毎日倍率を作り直す日経レバ型の商品を持ち続ける話は、同じ「居続ける」でも中身が違います。
問いの分解
「市場に居続ければ得をするのか」という一つの問いに見えるものは、研究では別々の対象として測られています。混ぜたまま第二のプレミアムと呼ぶと、測ったものと測っていないものが同じ結論に見えます。
- 株式の平均収益が安全資産を上回ってきたという、市場全体の観測
- 現状や初期設定にとどまりやすいという、選択の偏り
- 損失を強く評価し、短い間隔で資産を見ると株式を避けやすくなるという説明
- 実口座で利益を早く売り、損失を抱え、売買が多いほど費用控除後の成績が落ちるという観測
- 日次リセット型のレバレッジ型ETFでは、期間リターンが指数の経路に依存するという構造
前の四つを足して「居続けること自体に追加の報酬がある」とするのが、この仮説の骨格です。最後の一つは、日経レバ型の商品へ同じ骨格を移してよいかを制約します。
仮説を一枚にした図
図は、日経レバを持っていることに上昇局面への乗り方と判断回数の減少という二つの報酬がある、という見取り図です。ただし「トータルでは前者が勝ちやすい」という部分は思考実験の帰結であり、研究8本が日経レバの保有者と非保有者を比べた結果ではありません。
- 図が「第一のプレミアム」と呼ぶ上昇局面は、1889年から1978年の米国株式プレミアムを土台にしている。日本株や日経レバの先行きを測った記録ではない
- 実現リターンの分解式は、8本のどれかが推定した式ではない
- 列挙した研究は選択、制度、シミュレーション、米国個人口座を別々に扱い、日経レバの保有継続を直接測っていない
保有しているときとしていないとき
図では、保有者は上がったら売り、下がったら買います。非保有者の例には、上がったら空売りし、下がったら買い戻すルールを置いています。保有者だけが「買うかどうか」を毎回決めずに済み、上昇が続く局面では何もしないことが上昇に乗るように見える、という設定です。
ただし、非保有者が上昇時に空売りする必然性はありません。現金のまま待つ、一度だけ買うなど、比較ルールは複数あります。したがって、この対比は勝者を決めた検証ではなく、初期状態によって要求される判断が変わることを見るための一例です。
思考実験は「どちらが勝ちやすいか」の証拠ではありません。どの研究が何を測り、何を測っていないかを切り分けるための設定です。
株式プレミアムが測ったもの
Mehra と Prescott は、1889年から1978年の米国データで、ある種の一般均衡モデルが株式と財務省短期証券の平均収益率へ課す制約が、実測値と大きく食い違うと報告しました。歴史的に大きい株式収益と小さい安全資産収益を同時に説明するのは、対象としたモデルでは難しいという結果です。
これは市場に居続ける人が売買判断を減らして追加の収益を得たか、を測った研究ではありません。個人の保有行動も、日本株も、日経レバも対象外です。株式プレミアムという観測事実は仮説の土台にはなりますが、居続ける行動の効果へ直結しません。
現状維持と401(k)の初期設定
Samuelson と Zeckhauser は、何もしないことや以前の決定を維持することを現状として置くと、人はそれを不釣り合いに選びやすいと報告しました。対象は意思決定実験と、大学教員の医療保険・退職制度の実際の選択です。株式の保有成果は比べていません。
Madrian と Shea は、米国の大企業一社が401(k)を自動加入へ変えた前後を調べました。自動加入は参加率を高め、自動加入後の参加者の相当部分は会社設定の拠出率と運用先にとどまりました。運用先が優れていたことや、費用控除後収益が増えたことは示していません。
現状維持と初期設定は「行動しないと続く」仕組みを説明します。「行動しないと収益が増える」ことまでは示していません。
損失回避と評価頻度
Kahneman と Tversky は、人が最終的な富の水準ではなく、参照点から見た利得と損失で選択することをプロスペクト理論として記述しました。対象は仮想的な選択問題であり、市場に居続けること、売買回数、費用控除後の投資収益は扱っていません。
Benartzi と Thaler は、損失回避と、長期の投資家でも資産を頻繁に評価するという条件を組み合わせました。シミュレーションでは、ポートフォリオを年に一度評価する条件が、観測された株式プレミアムの大きさと整合すると報告しています。ただし後続研究にはこの説明の頑健性へ異論もあり、評価回数を減らした個人の実現収益を比べた研究でもありません。
実口座の処分効果と過剰売買
Odean は、米国の大手ディスカウント証券にある約1万口座を調べ、個人投資家が損失銘柄より利益銘柄を強く実現すると報告しました。持ち続ければよいという一般則ではなく、利益と損失で売却判断が非対称になる処分効果の証拠です。損失銘柄を長く抱える偏りも含みます。
Barber と Odean は、米国の66,465世帯の普通株を追跡しました。費用を含める前では、売買が多い世帯と少ない世帯の成績差はほとんどありませんでした。手数料と売買スプレッドを控除すると差が開き、売買が最も多い層の年率リターンは11.4%、平均的な世帯は16.4%で、抄録が示す市場の17.9%を下回りました。
判断回数を減らすと費用が減りうる、という読みはここに一番近い一方、標本は当時の米国です。日本の口座や現在の手数料条件での成立は検証されていません。
未検証のまま残っていること
8本を組み立てても、第二のプレミアムそのものは未検証です。名前がないだけでなく、効果として測られた記録がありません。
- 評価の回数を減らした人が、売買を減らし、費用や税のあとで収益を増やしたという因果
- 思考実験の保有者と非保有者を、実口座で同じルールのもと比べた記録
- 日本市場、日本の証券口座、日本の税制での成立
- 日経レバについて、保有継続が判断ミス回避のプレミアムになること
未検証は「成り立たない」ではありません。測られていないものを検証済みの報酬として扱わないための区分です。
日経レバでは経路が効いてくる
Avellaneda と Zhang は、レバレッジ型ETFの期間リターンを、原指数の期間リターンと実現分散で表す関係式を導き、米国のレバレッジ型ETF56本で検証しました。数日以上保有したときの乖離は、指数がたどった経路から計算できる量です。著者らは買い持ち投資家には適さないと結論していますが、乖離が常に不利だとは述べていません。
標本は米国上場のファンドで、日本の日経レバは含まれていません。通常の株式側で「居続けると判断が減る」と読める部品を、日次リセット型の長期保有へそのまま移せません。
研究DBで確認 — レバレッジ型ETFのリターンは指数の経路に依存する
本記事は、日経レバの長期保有を勧める材料ではありません。
研究8本の対照
| 研究 | 仮説での位置 | 測っていないこと |
|---|---|---|
| Mehra & Prescott (1985) | 株式プレミアムという市場全体の観測 | 個人の保有行動、日本株、日経レバ |
| Kahneman & Tversky (1979) | 損失を利得より強く評価する記述理論 | 市場への滞在、売買回数、投資収益 |
| Samuelson & Zeckhauser (1988) | 現状にとどまりやすい偏り | 株式の保有成果 |
| Benartzi & Thaler (1995) | 評価頻度と株式プレミアムの整合 | 評価を減らした個人の実現収益 |
| Odean (1998) | 利益は売りやすく損失は抱えやすい処分効果 | 居続けること一般の有利さ |
| Barber & Odean (2000) | 売買が多い層ほど費用控除後の年率が低い | 日本口座、現在の費用条件 |
| Madrian & Shea (2001) | 自動加入と初期設定への滞留 | 運用成果、日本の制度 |
| Avellaneda & Zhang (2010) | 期間リターンの経路依存 | 日本の日経レバ、判断ミス回避プレミアム |
各研究は異なる標本と成果指標を扱っています。この表は効果量を横比較するものではありません。
いま言えること
第二のプレミアムは、既存研究の部品を一枚に置いた仮説です。市場に居続ける人が余計な判断を減らし、その分だけ追加の報酬を得たと直接示した研究は、この8本にはありません。
- 米国の長期データには株式プレミアムという市場全体の観測がある
- 現状維持、損失回避、処分効果、過剰売買の費用は別々の対象で報告されている
- それらを「居続ける第二のプレミアム」へ合成する手順は研究の外にある
- 日次リセット型では保有リターンが指数の経路に依存し、通常株式の話を長期保有へ移せない
判断回数と費用が実現リターンを削りうるという手がかりはあります。それを日本の口座や日経レバの保有方針へ一般化することは、これらの研究の範囲を超えます。
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本記事は研究の一般的な紹介であり、売買推奨・投資助言ではありません。第二のプレミアムは既存の定説名ではなく、研究から組み立てた仮説です。
出典一覧
- Mehra & Prescott, The Equity Premium: A Puzzle (1985) — 1889〜1978年の米国。
- Samuelson & Zeckhauser, Status Quo Bias in Decision Making (1988) — 意思決定実験と福利厚生選択。
- Madrian & Shea, The Power of Suggestion (2001) — 米国大企業一社の401(k)。
- Kahneman & Tversky, Prospect Theory (1979) — リスク下の仮想的な選択問題。
- Benartzi & Thaler, Myopic Loss Aversion and the Equity Premium Puzzle (1995) — 損失回避と評価間隔のシミュレーション。
- Odean, Are Investors Reluctant to Realize Their Losses? (1998) — 米国ディスカウント証券の約1万口座。
- Barber & Odean, Trading Is Hazardous to Your Wealth (2000) — 米国ディスカウント証券66,465世帯。
- Avellaneda & Zhang, Path-Dependence of Leveraged ETF Returns (2010) — 米国のレバレッジ型ETF56本。